──参拝した人には何か伝わるのだろうが、参拝者が減ったらそれも難しい。
田中:平成25年には式年遷宮があったこともあり、例年500万~600万人だった伊勢神宮の年間参拝者が1420万人にも達し、その翌年も1000万人を超えました。増えた参拝者の多くは若い人たちです。これはとてもよいことだと思います。驚いたのは、若い人ほど、参拝の作法をきちんと守られていたことです。事前に雑誌や公式ホームページを見て勉強されていたようです。
──神職が能動的に語りかけることはしないと話していたが、作法などについては伝えるようにしている。
田中:神道では言挙げ(神道を言葉で説明すること)はしてきませんでした。生活に溶け込み、家庭で伝えられてきたので、その必要がなかったのです。
しかし、いまの情報社会の中では間違った知識が広まることがあるのです。そこで、神道の歴史・伝統について言挙げすることも必要となってきました。神道は儀式の宗教で、形を重視します。形を正して神のもとに詣でて、感謝の思いを捧げる。神道を正しく伝える責任を感じています。
●たなか・つねきよ/1944年、京都府生まれ。國學院大神道学専攻科修了。平安神宮権禰宜、石清水八幡宮権禰宜、禰宜、権宮司を経て、2001年、石清水八幡宮宮司に就任。10年、神社本庁総長に就任。神仏霊場会会長、全国八幡宮連合総本部長、世界連邦日本宗教委員会会長なども務める。
●神社本庁/1946年2月設立。戦前は国家機関・内務省神社局(神祇院)があったが、戦後にGHQが「神道指令」で、神社の国家からの分離を命じたため、神社界は宗教法人の神社本庁を設立。約8万の神社を包括し、神職約2万2000人、信者約8000万人を擁す。「神社本庁憲章」に基づき、名誉を象徴し表彰を行う「総裁」は池田厚子氏。同憲章に基づき、神社本庁を総理し代表する「統理」は北白川道久氏。宗教法人としての代表役員が総長。
●聞き手/山川徹(フリーライター)
※SAPIO2017年3月号