●菅原文太(広能昌三役)
【山守さん 弾はまだ残っとるがよう】『仁義なき戦い』
山守組・山守義雄組長(金子信雄)の謀略により、若頭の坂井鉄也(松方弘樹)は無残な最期を遂げた。その葬儀で広能昌三は「鉄ちゃん、満足じゃなかろう」とつぶやき、銃弾の雨を降らせる。最後に山守に向かって放った言葉は、本作を余韻の残る傑作に高めた。
【あとがないんじゃ… あとが…】『仁義なき戦い』
山守組と敵対する土居組組長の抹殺を命じられた広能は、山守組長から「これで遊んでこい」と金を渡される。娼婦を買い、ゆきずりの情事に溺れる広能の愛撫は、娼婦が「痛い!」と訴えるほど荒々しい。捕まれば死刑か?──そんな緊迫感が広能を“性の野獣”に変えた。
【トルんなら今ここでトリないや! 能書きはいらんよ、いつでも待っとるよ 】『代理戦争』
シリーズにおける広能昌三は、血気盛んな若者と老獪な組長たちとの板挟みにあい、常に苦虫を噛み潰したような顔をしている。それでも時折、理不尽な場面になれば青筋を立て、怒髪天を衝く表情に変わる。この落差が作品にメリハリを与え、観客に一体感をもたらした。
●松方弘樹(坂井鉄也役・『仁義なき戦い』/市岡輝吉役・『完結編』)
【神輿が勝手に歩けるいうんなら歩いてみないや、おう!】『仁義なき戦い』
組員から取り上げたヒロポンを横流しした組長に詰め寄り放たれた、シリーズ屈指の名セリフ。ヤクザの世界で絶対である親(組長)に向かい「神輿」と言い放つ爽快感が、サラリーマンの共感を得た。演じた松方は当時30歳で、この作品が役者稼業の分岐点となった。
【お前ら構わんけ、そこらの店ササラモサラにしちゃれい!】『完結篇』
『完結篇』のシナリオにも、広島県人に聞いても「ササラモサラ」という言葉は存在しない。松方は撮影が終われば大部屋俳優を中心とした「ピラニア軍団」と酒を飲むことが多かったが、そこで耳にした「ササラモサラ(めちゃくちゃの意)」をアドリブで使ったという。
【喧嘩はいつでもできますがのォ、酒は滅多に飲めん】『完結篇』
「毒を以て毒を制す」を実践したのが、『完結篇』における市岡輝吉だ。不倶戴天の敵である大友勝利(宍戸錠)に、あえて「30分だけ飲みましょう」と接近。市岡以上に狂犬である大友はこれを拒絶するが、「喧嘩はいつでもできますがのォ」と丸め込んだ。