当時の報道では単に、“安楽死”という言葉が並んだが、“医師が薬物を投与し、患者を死に至らす行為”は積極的安楽死と呼ばれるものだ。日本では認められていない。一方、“回復の見込みのない患者が、延命措置を拒否すること”は近年になって尊厳死と呼称されるようになり、一部の医療現場では、事実上容認されている現状がある。

 つまり、裁判で須田医師は積極的安楽死を行なおうという“殺意”はなかったと主張し、それが退けられたことになる。事件当時の状況について聞くと、須田医師は目に涙を浮かべているようにも見えた。

「(亡くなった患者のように)脳の状態が悪いと、セデーション(鎮静剤)が効きづらいんです。中枢神経がやられているから効きが悪く、薬が多くなってしまう。それで筋弛緩剤を投与したのです」

 須田医師はあくまでも、患者の苦痛をやわらげるために筋弛緩剤を投与したと主張したが、裁判で証言した看護師との間で、筋弛緩剤の投与方法や量をめぐって証言が食い違い、須田医師の主張は退けられた。患者が亡くなった後、今に至るまで遺族とは法廷以外で顔を合わせていないという須田医師は、筋弛緩剤を投与した時の気持ちをこう振り返る。

「ご家族は(死を看取る)固い意志をもって、みんな集まっていた。そんななかで患者さんが(チューブを抜いた後に)苦しんでいるのを家族に見せるのが辛かったので投与をした。もし、そこでご家族の誰かが『もう一度(チューブを)入れてください』と言ってくれていたら(状況は)違っていたかもしれない。こっちから提案するような雰囲気じゃなかったから……」

 その様子は家族との意思疎通がうまくいかなかったことについて、思うところがあるようにも見えた。

※週刊ポスト2017年3月10日号

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