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2017.03.02 16:00  週刊ポスト

【著者に訊け】木下昌輝氏 『敵の名は、宮本武蔵』

◆事実をベースにウソを捻り出す

 この武蔵親子との出会いや、美作後藤家との確執に絡んで朋友・本位田外記を謀殺した無二を恨む人々の執念が後々も影を落とし、本書の斬られ役はただ斬られては終わらない。

 例えば牛馬同然に売買された第2話のシシドにとって、彼の描く象の絵を褒めてくれた下女〈千春〉の存在は唯一の慰めだった。ある時、彼は千春を犯そうとした男を殺めてしまい、何とか逃げたものの、後に千春が女郎屋に売られたと知る。そして彼女を買い戻すため山賊となり、金を貯めたシシドの純情を引き継ぐのも、実は武蔵なのである。

「武蔵は障碍者を弟子にしたり、弱者にとことん優しいというか、現代的な人権感覚すら感じるんですね。

 実は僕が数年前に始めた竹内流の武道も、強敵には素直に謝れとか、風呂に入らせて裸になったところを襲えとか、一見卑怯でしょ(笑い)。ただそんな武道が400年も続いたのも、弱い人間がどうしたら生き残れるかを考えた武道だから。

 それがわかった時、僕はどんなに姑息な手を使っても生き延びようとした戦国武将・宇喜多直家を書き、今回のシシドのような人間にも、ただ斬られるだけではない光を当てたいと思った。世の中、悲惨な話は数知れませんが、書き方一つで輝きを宿せるのも、小説の力ですから」

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