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日本の裁判官 「出された紅茶は飲むな」と教えられる

日本の裁判官の数が少ないのは問題

「人生でできるだけ出会いたくない職業、それは裁判官」というジョークがある。一方、裁判官モノ、法廷モノの本は人気がある。注目する2冊とひとりの裁判官について、フリーライターの神田憲行氏が書いた。

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 出版の世界では「裁判所内幕もの」「裁判官物語」というのは一定の人気があるようで、毎年それなりの数が出版されて名作もある。今年も早くも2冊の本が話題になっている。

 岩波新書から出た「裁判の非情と人情」がそのひとつ。筆者の原田國男氏は刑事裁判畑を約40年間も歩み、最後は東京高等裁判所部総括判事で定年退官した。現在は慶応大学法科大学院で教鞭を執られている。

 本の中で語られるエピソードでやはり興味深いのは、極めて高い倫理性を求められる裁判官の仕事である。たとえば原田氏は若いころ、先輩から教わったことがある。

《検証や証人尋問で現地に行った際、お茶を出されたら飲んで良いが、紅茶はだめだ》

 理由は紅茶ではブランデーのようなアルコールが入れられているおそれがある。すると後から、裁判官は酒を飲んでいたという話になりかねないからだという。

 また新聞記者から裁判官によくされる「三大愚問」というのも紹介している。「裁判官は赤ちょうちんに行きますか」「裁判官は賭けマージャンをしますか」「裁判官はトルコに行きますか」である。「トルコ」という言い方が時代がかっている。原田氏の答えは「行きます」「ご想像にお任せします」「絶対に行きません」だ。

 一方で原田氏は最近の若い法律家の倫理観の低さを危惧してるいる。たとえば裁判当日になって遅刻してくる若い弁護士がいる。裁判官も検察官も被告人も入廷しているのに、悠然と遅れてやってきて、詫びも入れずにどっかと椅子に座る。

《裁判官や検察官はそういうことに慣れているからよいが、被告人が不安そうにしている。どうしたのだろう、このまま来なかったら、自分が不利になるのではなどと考え込んでいる》

 裁判官に失礼、ではなく、被告人の心情に思いやっているところが、原田氏がどういう裁判官だったのかわかる。原田氏によると遅刻癖は法科大学院の学生にも見られることらしく、「(遅刻してはいけない)このような教育は法科大学院からたたき込まなければならない」としつつ、「しかし、そんなことまで法科大学院で教えなければならないのだろうか」と嘆く。

 アメリカ合衆国連邦最高裁判所判事は国民的スターとして人気がある。書店では判事の自伝や旅行記が並び、主人公として映画化されることもある。原田氏の本でも判事の出身州の地元民が連邦最高裁の傍聴席に「おらが町のヒーロー」をひと目みんと詰めかける様子が、驚きの筆で紹介されている。

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