「35歳を過ぎてから疲れが取れにくくなっているのは確かですけど、それ以外は特に衰えは感じません。ただ、『ケガだけは絶対にできない』という思いは、年ごとに強くなってきている。
故障で1年間二軍にいたら、次の年がない立場であることはわかっているので。ある程度で自分に制限をかけなければならない。以前は、肉離れ寸前まで肉体を追い込んでも、次の日にはテーピングをして同じメニューにトライした。もうそんな無茶はできません」
肉体的な衰えはない。ただ、その一方で、精神的には「いつでも引退する覚悟はできている」ともいう。
「もちろん今年で終わってもいいと思っているし、実は昨シーズンの途中でも『これで終わりでもいいかな』と思うこともあった。でも、まだやれるという自信はあるし、その思いがあるうちはやめたくないし。ただ、もう限界だってところまでやってやめるのは嫌。『まだできるでしょ?』と言われながら去りたい。オルティズのようなスタイルには憧れますね」
元MLBレッドソックスのデービッド・オルティズは、昨季の開幕前にシーズン終了後の引退を表明。最後の遠征カードでは全米各地でお別れイベントが催された。
「これまで、お世話になった人に1試合でも多く見てもらいたいという気持ちが強いですからね。理想のスタイルです。引退してからもユニフォームを着るのか、それとも全く新しいことに挑戦するのか。定かではありませんけど、いずれにしてもスパッと辞めたいですね」
【プロフィール】いぐち・ただひと/1974年、東京都生まれ。青山学院大時代には東都大学リーグ史上唯一の三冠王となるなど活躍(通算24本塁打は現在もリーグ記録)、4年時にはアトランタ五輪野球日本代表として銀メダルを獲得した。1996年、ドラフト1位でダイエーに入団(逆指名)。プロ初出場試合で満塁本塁打を放つ鮮烈なデビューを飾り、その後も中心打者として1999年と2003年の日本一に貢献した。2005年にMLBホワイトソックスへ移籍。いきなりワールドシリーズを制し、日本人で初めて日本シリーズとワールドシリーズを制覇した選手となった。フィリーズ、パドレスを経て2009年にロッテへ移籍。2010年には日本一に貢献する。
撮影■藤岡雅樹 取材・文■田中周治
※週刊ポスト2017年3月17日号