BtoC(個人向け販売)からBtoB(企業間取引)へ。消費者は日立製品を見なくなったが、安定的な需要が見込める企業間取引で日立は成功を収めていく。
そして2010年に川村氏は会長となり、中西宏明社長(現会長)との「川村―中西ライン」が同社に大きな変革をもたらす。前任者の“負の遺産”を次々と切り離し、文字通り「タブーなき改革」を断行していったのだ。電機、自動車業界などに詳しいジャーナリスト・片山修氏も、日立と東芝の違いを次のように分析する。
「歴代社長で比較すると、東芝は文系出身者が多いが、日立は技術畑の理系出身者で固められています。トラブルに直面した際、東芝は調整力で解決しようとしますが、日立は技術力で解決するのがモットー。
また東芝のように歴代社長が経団連会長を目指す“財界病”にも毒されていない日立は、その無骨さゆえ『野武士集団』とも称されますが、それだけ己の技術に確かな矜持を持っているといえます。
そして技術者集団ならではの正確な現状認識に基づいて事業などの将来性を見通す『目利き力』があったからこそ、コアでない事業を果断に切り捨てられたといえるでしょう」
さらに、IT・通信分野の専門調査を手がけるMM総研の中村成希・執行役員研究部長(アナリスト)は、こう付け加える。
「日立は有望視されるIT分野でも、利益の少ない事業は遠慮なく切っていきました。その一方で、今後も収益拡大が見込める分野では、無理をしない範囲で事業を拡大してきた。
2014年には、顧客がネット経由でコンピューターやソフトウエアを利用できるクラウドビジネスに参入するため、先行していた米アマゾンと提携。すべて自前の事業にせず、身の丈を超えない範囲に収めるなど、きめ細かい『選択と集中』を進めてきたのです」