高齢者が前立腺がん検診を受けた場合なども、デメリットが大きくなりやすい。なぜなら、前述の通り前立腺がんは進行が遅いので、放置してもその人の生死には関係なく、進行する前に別の病気で死んでしまう可能性が高いからだ。名郷氏が続ける。
「50歳で見つかった前立腺がんなら、『早期発見に意味があるのでは?』と思うかもしれません。でも、70歳になった時点でも、大して進行していないケースが多いのです。早期発見されたばかりに、その後の20年の人生を『がんとともに暮らさなければならない』という負の側面も生じます。
もちろん、『俺は100歳まで生きたいんだ!』と考えている人には、80歳でも検診を受ける意義があるかもしれません。しかし高齢になるほど、手術を受ければ体に受けるダメージが大きくなります。
少なくとも、『がんは早く見つければ見つけるほどいい』という単純な考えは、前立腺がんでは危険です。早期発見のために不幸になる人がいることも知っておくべきです」
こうしたことは、前立腺がんに限らず、どのがんでも言えることだろう。「早期発見・早期治療こそがもっとも重要なこと」という常識は思い込みに過ぎない。がん検診には、人生を台無しにする危険性も潜んでいるのだ。
●鳥集徹(ジャーナリスト)と本誌取材班
※週刊ポスト2017年3月17日号