2015年度司法統計によると、妻から離婚を言いわたす場合の理由ランキングでは、1位は「性格の不一致」だが、2位「生活費を渡さない」、6位「浪費する」と、10位以内に2項目もお金がらみがランクインしている。

 その点、弘康さん夫婦は職場結婚で、ふたりとも定年まで勤め上げた。「お互いのお金はお互いで管理する」という決まりがあり、月に一定金額ずつ生活費として出し合う生活をしてきた。

「はじめから“借の字”はやらないと決めていました。借金、借地、借用。借りるとお金を返さなきゃいけませんからね。だから、退職金のうち約1500万円を使い、馬代はもちろん、ゲルや柵、軽トラやビニールハウスなどもすべて購入しました」(弘康さん)

 弘康さんは一から牧場をつくったため、特にお金がかさんだ。「第二の人生」で新しいことを始めるにはかなり高額な費用が必要だと思われるかたも多いかもしれないが、実際はそうでもない、と「銀座セカンドライフ株式会社」でシニア世代の起業の相談に乗る、片桐実央さんが言う。

「50代60代のかたは、小規模で起業する人が多く、起業にかける初期投資は、200万円から500万円、少ないと50万円というかたもいらっしゃいます。若者の起業とは違い、家を抵当に入れたり多額の借金をするかたが少ないため、大きな損失を生むことはありませんが、5年以上続く会社は半分くらいです」

 半分──つまり、2人に1人は“楽園”の夢を挫折するわけだ。長い老後を暮らす“虎の子“である退職金を使うリスクを裕子さんはどう考えていたのか。

「お互い長年勤めていて手に入れた、自分の退職金ですからね。使い方に口を出したことはありません。それに牧場の規模は小さくて、大きい赤字も出なければ儲けもない。私は、起業というよりも、道楽の延長だと思っていました(笑い)」

 馬の飼育費など、月にかかる経費は20万円くらい。収入は、『人生の楽園』に出た直後は50万円くらいになったが、ひと月しか続かなかった。

「年収にすると200万~250万円でしたし、経費もかかっているから利益はありませんでした。お客さんの“ありがとう”“楽しかった”“また来ちゃった”の言葉が、何よりの収入でした」(弘康さん)

 今回弘康さんは地元でセカンドライフを始めたが、移住の末に起業する人は、また違った苦悩を抱えることも多い。

 新たな地に移住して新たな生活を始めたものの、地元の人たちになじめなかったり、特にご近所づきあいが濃すぎる田舎ではプライバシーもないためそんな生活に耐えられず、都会に戻る人は多い。たとえば、リタイア後の移住先として人気のある沖縄は、3年以内に6割が地元に戻っていくという調査もある。

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