目の手術を受けて3か月たった12月20日、この日が赤馬牧場最後の日となった。その後、馬は岐阜と軽井沢の個人に引き取られた。
「別れる当日、馬はどこかに連れて行かれるってわかるから、全然、馬運車に乗らないんです。雨の降る1月の寒い日なのに、大人数人がかりで汗だくになって、馬を押したり引っ張ったりしました。1時間半くらいかかって、やっと馬が車に乗った時、ぼくは廃人のようになっていました。疲れと、信頼できる人に馬を引き渡した安心感で。その後は、未練が残るから、1回ずつしか馬に会いに行っていません」
今は妻とふたりで、退職金を出し合って建てた家に住み、ささやかな家庭菜園を作っている弘康さん。そこには、飼っているニホンミツバチの姿もある。
今でも、『人生の楽園』は毎週の楽しみの1つだと言う。
「最近は蕎麦屋とか喫茶店とか、飲食店が多いですね。うちより立派にやっとるな、とか思いながら見ています(笑い)」
最後に、もしも退職前の決断の日に戻れたらどうしますか? と聞いてみた。
「やっぱりもう一度牧場をつくりたいです。廃業した今でも連絡を取り合う常連さんが何人もいるんですけどね、その中のカップルが今度結婚するから、牧場の跡地でお祝い会をやる予定なんですよ。馬が人を連れて来てくれた、牧場がなくなってもそんなふうに思うんです」
自分だけの“楽園”が見つかって、運よくたどり着けたとしても、そこには幸せだけがあるわけじゃない。それでも思わずにはおれない。“楽園“を見つけられる人は、そうでない人より幸せなのではないかと
※女性セブン2017年3月23日号