──バブル時代に限らず、近年になってもオリンパス巨額粉飾決算事件、東芝の不正経理問題など、企業とサラリーマンが「道を踏み外す」事例が絶えません。なぜなのでしょうか。
國重:サラリーマンというのは会社のためなら何でもする、というところがあるんですね。自分が個人的な利益を得るわけでなくても、「会社のため」という大義名分があると何でもしてしまう。極端に言えば人さえ殺しかねない。
イトマン事件のとき、僕は自分の愛する銀行が「闇の勢力」に喰い物にされるのを阻止しようとしたつもりですが、もしかしたら僕と反対の側に立っていた役員も「自分は会社のためにやっている」と信じ、その人なりの正義の立場に立っていたのかもしれません。
──國重さんのやったことは「闇の勢力」の米櫃を荒らすことです。身の危険を感じませんでしたか。
國重:僕が動いていることがわからないようにやっていたつもりですが、当時の頭取に「くれぐれも身辺に注意しろ」と言われたことはありました。たまたま警察庁出身の友人から「防弾チョッキを安売りしているから買わないか」と勧められ、実際に買い、半分冗談でそれを着て会社に通っていた時期もありますよ。
──今、バブル期を振り返る本が多くの読者に読まれているのはなぜだと思いますか。
國重:皆さんの頭にあるのは2020年でしょう。今は2020年に向けてバブルの最終局面にあるのではないか。だとすれば、2020年のあと、どうなるのだろう……と、皆さん、破滅の予感がしているのだと思います。だから、かつてのバブル時代に学ぼうとしているのではないでしょうか。
【PROFILE】國重惇史●1945年山口県生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友銀行入行。1994年同期トップで取締役就任。1997年に銀行を出て楽天副社長、楽天証券会長、イーバンク銀行社長・会長などを歴任し、「三木谷浩史会長の右腕」と言われた。現在株式会社シーアンドイー取締役会長。
※SAPIO2017年5月号