◆会社には水筒を持参、バスタオルは2、3日、同じものを使う
とはいえカナさんは、結婚を切実に望む30代の大人でもある。結婚に歩みよりが欠かせないこともわかっていた。ケンジさんはお金がないわけじゃない、貯金だって、30代の平均サラリーマンよりずっとある。自分の感覚からすればやや倹約家すぎるけど、散財する人よりよほどいいじゃないかと、気持ちを切り替えようとした。そこで話し合い、今後、2人での食事はできるだけ家でとろうと取り決めた。行きたいお店へは、それぞれ別々に、友人と行こうと。
しかし、マンションは2人別々、というわけにはいかなかった。
「私は、通勤に便利な23区内に住みたかったんです。もちろん私も半分出すつもりで。それでも2人で住めば、10万円程度払っている今の家賃より安くなる。でも彼は、23区内は高すぎると断固反対しました。近い将来、子供がほしいから、もっともっと貯金しないといけないんだ、23区内なんてとんでもないと。彼には私がお金にルーズにうつるようで、結婚したらお金の管理は僕がするね、と宣言されもしました」
カナさんが妥協をし、同棲は千葉県で始まった。ケンジさんは毎日、自分でお茶を入れ、水筒を持って会社に出かける。ランチは同僚とのコミュニケーションを兼ねて外に出るが、本当は弁当がいいのだとも言う。一方カナさんは、しばしば、会社のビルに入っているスタバでラテやフラペチーノを買う。次第に、ことあるごとに、ケンジさんにとがめられているような気分になってきた。
「スタバはもったいない、というのはわかるんです。カロリーが高いから、飲まないほうがいい気もするし。でも、受け入れられなかったのは、同じバスタオルを、2、3日は使おうと言われたこと。洗濯の回数を減らしたいから、と。一人暮らしの男性が、面倒だから毎日変えないのはわかりますよ。水道代をケチるっていうのは、クーポン以来の衝撃でした」
次第に会話が減り、同棲は半年で解消することとなった。
「ささいなことを気にするな、と友人には言われました。多少ケチでも、持ってない人より持ってる人のほうが絶対いいんだ、と。でも、一緒に生活していると疲れてしまって……」
カナさんが浪費家なのか、ケンジさんが倹約家すぎるのか──。それはおそらく、どちらでもいいことなのだろう。問題は年収の多寡ではなく、お金の使い方なのだ。
「結局、お金の使い方に、その人の美学っていうのかなぁ、大事にしてるものとか生き方が出るんですよね。いまもネット婚活を続けていますが、年収の欄は、あまり見なくなりました(笑)」