ビジネス

人知れず歴史的使命を終えていた京阪特急のテレビカー

京阪テレビカーでは、たいていNHKが放送されていた

 鉄道に新型車両が投入されるとき、最近では豪華寝台列車「四季島」(JR東日本)のように、装備がどれだけ豪華で便利かということに注目が集まることが多い。かつて、その豪華で便利であることの象徴は「カラーテレビ」だった。かつてのプレミアム車両導入を振り返り、現在の新装備として関心が高いものは何か、ライターの小川裕夫氏が追った。

 * * *
 2017(平成29)年3月、西武鉄道は40000系の運行を開始した。西武線のみならず東京メトロ・東急東横線・横浜みなとみらい線もしくは有楽町線に直通する「S-TRAIN」は、座席指定列車として運行される。40000系の座席は通常時は多くの人が乗車できるようにロングシートになっているが、「S-TRAIN」として運行される場合は座席がクロスシートに切り替わる仕様になっている。

「S-TRAIN」は着席保証されていることがウリになっているが、そのほかにも車内にパソコンや携帯電話などが充電できるようにコンセントが整備されていることも大きな特徴といえる。こうした着席サービスは、ほかの鉄道会社でも拡大中だ。

 西武よりも一足早く、東武鉄道では2008(平成20)年に東武東上線で座席指定の「TJライナー」運行開始した。

 仕事帰りの疲れた体を休めたい。移動時間に仕事を進めたい──そんなビジネスマンのリクエストに応えるべく、鉄道各社は着席サービスに力を入れ始めている。着席サービスは運賃とは別に座席指定料金などが必要になるが、おおむね利用者には好評のようだ。

 他方、近年は輸送人員が頭打ちになりつつあるため、鉄道会社は座席指定料金などで売上を増やそうという狙いがある。

 京阪電気鉄道(京阪)でも、今年8月20日に座席指定車両”プレミアムカー”がデビューする。プレミアムカーは、これまで京阪特急として運行してきた8両編成の8000系に1両だけ組み込まれる。

 京阪は、1915(大正4)年から特急料金不用の特急列車を走らせてきた。それだけに、プレミアムカーの運行は、京阪の伝統を打ち破ることになる。京阪広報部は、プレミアムカーの特徴について「オリジナルのリクライニングシートを2+1列で導入するほか、移動中のパソコン等の利用に便利な大型テーブル、誰でも無料で利用できるFree Wi-Fi、全席にコンセント完備といった設備面の充実させたほか、専属アテンダントによるお出迎え・お見送り・観光案内などのサービスなど、快適性とパーソナル空間の演出にこだわりました」と力説する。

 京阪のプレミアムカーは8両編成のうち、わずか1両のみ。それ以外の車両は、これまで通り運賃のみで乗車することが可能だ。8000系には2階建て車両も連結されており、こちらも運賃のみで乗車できる。

 新時代に対応したプレミアムカーが登場した京阪では、過去に初代3000系と呼ばれる車両が看板特急の座を長く務めていた。1971(昭和46)年にデビューした初代3000系は、2013(平成20)年まで活躍した。そのため、初代3000系に特別な思いを抱く人は少なくない。

 初代3000系が高い人気を得ていた理由はいくつかあるが、初代3000系を語る上ではずせないのが”テレビカー”の存在だろう。

 大阪―京都を約1時間で結ぶ京阪は、同区間に特急列車を頻繁に走らせている。京阪の特急は単に停車駅が少ないとかスピードが速いだけではなく、特急料金やグリーン車を必要としない。割安な特急にも関わらず、利用客が快適に過ごせるように車内設備を充実していた。その象徴が、車内にテレビを設置したテレビカーだった。

 高度経済成長期の真っただ中にあった当時の日本では、新三種の神器として3C(カー・クーラー・カラーテレビ)が生活必需品として喧伝された。当時、NHKのカラー受信契約はようやく1000万世帯を超えた程度だった。カラーテレビは高級家電だったため、一家に一台。そんな折、京阪特急の車内にカラーテレビがお目見えしたのだから、そのインパクトは絶大だった。京阪広報部は

「初代3000系は、精悍なデザインに加えてカラーテレビや車内冷房、オールクロスシートなど優秀な車内設備を備え、京阪特急・京阪電車のイメージアップに大きく貢献しました」と胸を張る。

関連キーワード

関連記事

トピックス

全国でクマによる被害が相次いでいる(AFLO/時事通信フォト)
「“穴持たず”を見つけたら、ためらわずに撃て」猟師の間で言われている「冬眠しない熊」との対峙方法《戦前の日本で発生した恐怖のヒグマ事件》
NEWSポストセブン
韓国のガールズグループ「AFTERSCHOOL」の元メンバーで女優のNANA(Instagramより)
《ほっそりボディに浮き出た「腹筋」に再注目》韓国アイドル・NANA、自宅に侵入した強盗犯の男を“返り討ち”に…男が病院に搬送  
NEWSポストセブン
ラオスに到着された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月17日、撮影/横田紋子)
《初の外国公式訪問》愛子さま、母・雅子さまの“定番”デザインでラオスに到着 ペールブルーのセットアップに白の縁取りでメリハリのある上品な装い
NEWSポストセブン
ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト