◆北朝鮮シンパが暗躍
ところが近年の選挙では、これとはまったく逆の構図が現れるようになっている。端的なのが、2010年6月に行われた統一地方選挙だ。このときは地方選ながら、対北政策が最大の争点になった。同年3月26日、海軍の哨戒艦「天安」が突如爆沈して乗員46名が死亡。これが北朝鮮の魚雷攻撃によるものと判明し、北とどのように向き合うかがテーマとなったのだ。
このとき、保守派の李明博政権は、「北朝鮮をつけあがらせたのは、金大中、盧武鉉の10年間にわたる左派政権である」として、対北強硬策を次々に打ち出した。しかし、地方選で圧勝すると思われた与党は、まさかの惨敗を喫したのである。
理由については様々な分析があるが、早い話、韓国国民は現在の繁栄を賭けてまで北朝鮮と対決することを望まなくなったということだ。韓国国内の厭戦ムードは、時とともに顕著になりつつある。ソウル在住のジャーナリストが話す。
「今回、保守派の自由韓国党から大統領選に出た洪準杓(ホンジュンピョ)候補が4月15日に釜山で行われた集会で、『有事の際には軍を北進させ、金正恩ら指導部を除去して国土を制圧する』とぶち上げたのですが、ネット上で『頭がおかしいんじゃないか』『ぜったいに投票しない』と叩かれまくっています。発言しているのは主に、息子を兵役に送っている親の世代。北朝鮮は核兵器を持って待ち構えているわけで、そんなところに息子を送るなどとんでもないと。この点は保守派も左派も差がなくなっているように見受けられます」
ということはもはや、韓国の世論は北朝鮮の核の前に屈してしまったとも言える。金正恩朝鮮労働党委員長は核兵器を使わずして、その心理的効果により、すでに大きな果実を手にしているわけだ。