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【書評】ナチス政権下の若者の間で響いたジャズの音色

【書評】『スウィングしなけりゃ意味がない』/佐藤亜紀・著/角川書店/1800円

【評者】与那原恵(ノンフィクションライター)

 この小説の舞台はドイツ・ハンブルク。一九三九年から、戦争が進行する日々を十代の少年エディの目を通して描いていく。タイトルがデューク・エリントンの名曲からとられているように、物語を貫くのは、敵性音楽として排斥されたジャズの躍動的な音、および多様性を尊重するジャズの精神というべきものだ。

 エディは、軍需会社経営者の御曹司。ブルジョア階級に属する彼は、ジャズに熱狂する悪ガキグループの一員である。おしゃれをして、夜な夜なクラブに集い、ジャズに酔いしれて踊る、そんな日々を過ごしていた。

 ナチス体制下のドイツでは、若者たちをファシズム体制に順応させるべく組織された「ヒトラー・ユーゲント」が知られる。けれども画一的な価値観に同調しない若者たちも多くいて、エディら登場人物たちの設定は、「スウィング・ボーイ」と自称したグループが実在した史実に基づいている。

 ナチス体制以前、ワイマール共和政下(一九一九~三三年)の二〇年代のドイツは、享楽的な文化が開花した。ハンブルクは長い「自由都市」としての歴史を誇り、ドイツ一の経済都市であった。そこで生まれたエディにとって〈スウィングは、ぼくが生まれた頃からぼくの家にあった〉。だが、やがて戦争の狂気、ナチス体制の滑稽さを思い知らされることになる。

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