ビジネス

都営地下鉄の細かすぎるPR戦略 「音鉄」向けレア音源も

東京都交通局PROJECT TOEI]

 もうすぐ20周年を迎える人気バラエティ番組『とんねるずのみなさんのおかげでした』で不定期に放送される「博士と助手~細かすぎて伝わらないモノマネ選手権~」は、DVDも発売されるほどの人気コーナーだ。このコーナーは、特定のジャンルではよく知られているが一般には知名度が低い人のモノマネも人気を集めているのが特徴だ。都営交通局の最近のプロモーションは、まるで「細かすぎて~」のようなアプローチを続けている。着メロにできる鉄道車両モーター音公開など、独特なプロモーションが目立つ“PROJECT TOEI”について、ライターの小川裕夫氏が追った。

 * * *
 東京都には、ふたつの地下鉄事業者が存在する。ひとつは東京メトロ。もうひとつは、都営地下鉄を運行する東京都交通局だ。

 1日約630万人が利用する東京メトロは、総延長や路線数の規模が大きいだけあって大々的な情報発信をおこなっている。“Find my Tokyo.”をキャッチフレーズに女優・石原さとみが沿線の街を紹介するテレビCMは、東京メトロのイメージを向上させるとともに新しい需要を掘り起こすことにもつながっている。

 一方、東京都交通局が運行する都営地下鉄の利用者は、1日に約260万人前後。路線総延長や路線数といった事業規模が異なるだけに単純比較はできないが、利用者数は倍以上の差をつけられている。

 都営地下鉄を運行する東京都交通局の情報発信は、駅構内や都庁などで沿線を紹介する冊子を配布、ポスターを貼るぐらいだった。東京メトロのような大規模な広告展開はしていない。

 それは都営地下鉄が東京都所管の公営企業であることから、利益を拡大することより都民の足としての役割を優先してきたからだ。つまり東京都交通局は公共交通として“稼ぐ”ことよりも公共の福祉としての面を優先してきた。

 とはいえ、それは建前。テレビCMには、起用するタレントのギャラ・制作費・広告料金など、莫大な費用がかかる。交通局は東京都の一部署だから、東京メトロのようなテレビCMを打つような予算がない。それが、東京都交通局の内実であり、本音だ。

 しかし、莫大な資本力がなくても工夫次第で宣伝や広報をすることはできる。インターネットにアップした動画が話題を集める時代。そうした潮流を受け、東京都交通局は昨年8月にHPをリニューアル。新たに“PROJECT TOEI”をスタートさせた。

「東京都交通局は2016(平成28)年に創立105周年を迎えました。“PROJECT TOEI”は、『東京都交通局の創立105周年という節目の年に何かできないか?』という発案から始まった企画です」と話すのは、東京都交通局総務部企画担当課の担当者だ。

 105周年を節目の年とするのは中途半端な気もするが、東京都交通局は日頃からイメージアップや都民への認知度を高め、利用者増につなげたいという気持ちが潜在化していた。そのため、機会あるごとに企画を立てて、沿線住民のみならず都民に広報・宣伝をおこなっている。

 例えば、100周年を迎えた2011(平成23)年。まさに節目でもあった年に、東京都交通局は老朽化した都電の車両を改造し、花電車として運行した。”花電車”とはイベント用に装飾を施された電車で、昭和30年代には東京都のみならず、各地で運行されていた。現在、花電車を運行する事業者は少なく、東京都でも長らく運行は途絶えていた。

 創立100周年で運行された花電車を見た沿線住民からは「懐かしい」という声が聞かれた。また、花電車を一目見よう、写真に撮ろうとする鉄道ファンを多く集めることにも成功した。花電車の評判は上々だったが、肝心の利用者増・認知度向上にはつながっていない。

 東京都交通局の姿勢からは、定期的にイベントを開催したり、新しい取り組みに着手するなどして、何とか認知度を高めよう、利用者増につなげようとする苦労は窺える。105周年という中途半端な節目であっても、“PROJECT TOEI”という新たな取り組みを始めたのは意気込みの現れでもある。

“PROJECT TOEI”は、これまでのHPのように路線図や乗り換え案内、時刻表、お忘れ物の問い合わせといった鉄道会社にありがちな無味乾燥な業務案内だけではない。動画をふんだんに使い、鉄道に詳しくない人たちの興味も引くような仕掛けが施されている。動画コンテンツ以外にも、エッセイ風の昔話や職員しか知り得ない裏話・秘話なども綴られて、鉄道ファンじゃなくても十分に楽しむことはできる。

関連キーワード

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン