山田が監督を務めた『男はつらいよ』の冒頭は、いつも寅さんの夢から始まる。「夢」は山田にとって大きな関心事なのだ。
このとき、山田はこう続けた。
「昔、撮影所のことを『夢の工場』と言ったんです。僕たちは、夢をつくっている。僕がつくり、映画会社がそれを売る。だんだん頭が弱ってきて、夢が見られなくなった人には、入場料1800円で夢をお売りしますよ、と」
かくして、85歳の巨匠は、夢工場で働き続け、86作目となる夢をまた産み落とそうとしているのである。
●やまだ・ようじ/1931年生まれ、大阪府出身。幼少期を満州で過ごし、1954年、東京大学法学部卒業後、助監督として松竹入社。1961年『二階の他人』で監督デビュー。1969年『男はつらいよ』シリーズ開始。『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)、『息子』(1991年)、『学校』(1993年)など多数の代表作がある。2002年に『たそがれ清兵衛』で国内の映画賞を総なめにし、第76回米国アカデミー賞外国映画部門のノミネートを果たす。毎年のように映画作品を発表する一方、近年は舞台脚本・演出にも精力的に取り組む。1996年に紫綬褒章・朝日賞、2002年に勲四等旭日小綬章、2004年に文化功労者、2012年に文化勲章など受章等も多数。
撮影■江森康之/取材・文■一志治夫
※週刊ポスト2017年5月26日号