城の設定はファンタジーのように感じられるかもしれないが、物語の後半で、驚きの展開が待っている。何のためにこの城が作られたのか、ミステリとしての謎が解き明かされた瞬間、著者がこの小説に込めた真のテーマが浮かび上がる。大人の読者にとっても圧巻の結末だ。
「鏡の向こうの城には実際に行くことができないけれど、中学時代、私にとっては本の世界が彼らの城に近い存在でした。世界がここだけではないことを教えてくれることは現実逃避ではなく、現実を生き抜く体力を私につけてくれた。今回は、そうした物語への感謝も描いています」
彼らが迎える感涙のラストである人物が言う〈大丈夫だから、大人になって〉という言葉は、本書の登場人物だけに向けられてはいまい。今の10代、そして元10代の誰にとっても、生きづらさを生き抜く体力や仲間は必要なのだ。
【プロフィール】つじむら・みづき/1980年山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒。小学生から創作を開始し、2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。2011年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、2012年『鍵のない夢を見る』で第147回直木賞。著書は他に『凍りのくじら』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『島はぼくらと』『ハケンアニメ!』『朝が来る』『東京會舘とわたし』等。153cm、B型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2017年6月2日号