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公開処刑増の北朝鮮 金正恩政権に迫りくる内部崩壊の足音

◆「破壊、暗殺罪」の厳罰化

 金正恩は幹部の忠誠心と民心の掌握に躍起になっているが、根本的な統治手法の改革を行わない限り、現実に生起している事態に適切に対応することは困難であろう。

 このため、恐怖政治により表面的な忠誠を誘導することで政権を維持させているわけだが、表面化しないだけで幹部の金正恩への反発は増幅されていると思われる。恐怖政治の長期化により一般国民だけでなく側近も金正恩から離れていくだろう。

 筆者は、2009年の刑法改正で、最高刑が「無期労働教化刑」から「死刑」に厳罰化された「破壊、暗殺罪」に注目している。これは、過去に生起していないような、破壊活動や要人暗殺が現実味を帯びてきたことを、少なくとも2009年の段階で金正恩をはじめとする指導部が認識していたことを示唆している。

◆危機感を募らせる金正恩

 2012年11月、金正恩が全国の分駐所(派出所)所長会議出席者と人民保安省全体に送った訓示で、

「革命の首脳部を狙う敵の卑劣な策動が心配される情勢の要求に合わせ、すべての人民保安事業を革命の首脳部死守戦に向かわせるべきだ」

「動乱を起こそうと悪らつに策動する不純敵対分子、内に刀を隠して時を待つ者などを徹底して探し出し、容赦なく踏みつぶしてしまわなければならない」

 と発言している。これは、金正恩が反体制勢力の存在を認識していることを意味する。治安機関の監視の目をかいくぐって進んでいる犯罪の凶悪化と組織化が、金正恩に危機感を与えていることは確かであろう。

 最近のアメリカに対する強硬姿勢の背景には、こうした国内事情もあると思われる。金正恩が長期にわたり政権を維持するためには、核兵器と弾道ミサイルを背景にアメリカとの二国間交渉を実現させ、経済支援を獲得することで国民生活を少しでも向上させて不満を抑える必要がある。

 しかし、国民に一時的に食糧などを配給することができたとしても、配給制度の崩壊と国外からの情報流入の増加により、祖父・金日成の時代のような統制された社会に戻すことは、もはや不可能である。

 近い将来、反体制運動により突如政権が崩壊することは考えにくいが、金正恩政権が緩やかではあるが内部崩壊への道を進んでいることは確かであろう。

●みやた・あつし/1969年愛知県生まれ。朝鮮半島問題研究家。1987年航空自衛隊入隊。陸上自衛隊調査学校修了。北朝鮮を担当。2005年航空自衛隊退職。2008年日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了。近刊に『北朝鮮恐るべき特殊機関』(潮書房光人社)がある。

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