◆ずさんな武器弾薬の管理
武器弾薬のずさんな管理については、すでに10年以上前に問題となっている。2004年3月10日付の『武器、弾薬に対する掌握と統制事業をより改善強化することについて』と題された朝鮮労働党中央軍事委員会命令で、この問題の細部が明らかにされている。
紙幅の関係で詳細は省略するが、この命令の内容を一言でいえば、軍のみならず治安機関を含む武器を扱う組織で、武器と弾薬の管理がまったく行われていなかったという驚くべきものである。
例えば、「武器と弾薬が統制外に流れないようにすること」という記述があるのだが、これは裏を返せば、どこかへ流出しているという事象が実際に起きていることを意味している。「統制外に流れている」武器は、兵士が生活苦のために中国へ横流ししている場合もあるが、どこかの民家の床下に武装蜂起のために集積されているのかもしれない。
現時点での犯罪は、質と量において金正恩政権の存続に直接影響を及ぼすほどではない。しかし、治安機関の取り締まりが緩み組織的な犯罪が増加していることから、不満を持つ人々が組織化され反体制運動に発展する可能性を排除することはできない。
治安組織の取り締まりの緩みの原因の一つとして、治安組織の要員が生活苦から犯罪者から賄賂を受け取るなどの共存関係にあることが挙げられる。
◆公開処刑の増加
近年は、治安の悪化を処罰の強化で対応している。処罰の強化の代表例として公開処刑の増加が挙げられる。これは犯罪が急増しているため、殺人者、再犯者に対して極刑を科しているためである。
公開処刑は貨幣改革の失敗直後から大幅に増加している。前後の1年間を比較すると3倍強にも達している。この背景には、相次ぐ経済政策の失敗により国民の不満と反発が高まったため、死刑の適用対象を拡大したことがあると思われる。
金正恩が2012年4月に第1書記に就任して以降、多くの幹部が処刑されている。処刑は金正恩による超法規的な指示によるものもあると思われるが、死刑の適用対象の拡大も影響していると思われる。
◆反体制事件の発生
北朝鮮では過去に反体制事件が発生している。しかし、事件は散発的に起きており、組織の横のつながりがないため大規模な反体制運動にまでは発展していない。
2003年3月と8月に労働党中央委員会が発刊した思想教育資料『我々の内部に潜入した反党、反革命悪質分子、資本主義の退廃思想を広める反社会主義異色分子の策動を徹底して粉砕しよう!』では、咸鏡南道の蓋馬高原を中心に度々発生している送電線破壊事件を例に挙げ「反共和国策動」を一掃するよう促した。北朝鮮国内で破壊行為が行われていることが文書で明らかになったのは、これが初めてである。
実際に2003年6月に咸鏡南道と両江道の送電線が破壊され、両江道全域で停電が発生している。このため、2004年に配布された幹部向けの思想教育資料では「実際に送電線が破壊された事件が数例ある」と明らかにしている。
思想教育資料でこのような事件を実例として挙げているのは、事件の頻度と被害が、もはや隠すことが出来ないほど深刻な状態になったことを意味している。