小笠原:ぼくも昔はひとり暮らしの旅立ちは孤独死だと思っていました。でも、ある時、アパートの一室で30年以上ひとり暮らしをしている学校の先生が、「ひとりで家で死ねるなんて、こんな幸せなことはないわ」とおっしゃったんです。その言葉に、自分の考えが根底から覆されました。
室井:それは自分の暮らしている場所への愛着があったということ?
小笠原:そう、家にいると、寝たきりになって天井を見ていても、あれはあの時の雨漏りの跡だとか、あの絵は誰とどこで買ったとか、過去を思い出せます。家には暮らしてきた人の歴史が詰まっていますから。そういう吸い慣れた空気の中で死ぬか、それとも病院の白い天井を見て死ぬのかで、心の落ち着き方が全然違うんですね。
室井:なるほど、わかります。
小笠原:そのかたは、いちばん親しいお友達が訪ねてきている時に亡くなりました。不思議なことに、ひとり暮らしの人でも、お友達やヘルパーさんなど、誰かが来ている時に亡くなることが多いんです。実は今朝、54人目のひとり暮らしのかたが亡くなったんですが、そのかたも最期は連れ合いのかたが初めて泊まってくれていたので、おひとりではなかったんですね。ひとり暮らしだからといって、孤独死だと考えるのは間違っていますよ。
室井:確かにそうですね。逆に家族がいても孤独な人もいます。病院だって、人はたくさんいますが、心のつながりがなかったら、やっぱり寂しいですもんね。
小笠原:ちょっと意地悪なんですけど、病気の奥様をご主人が一生懸命に看病していると、ぼくは奥様に「うれしいですか?」と聞くんです。うれしいと答えたのは今まで2人だけ。あとはみなさん、「うざい」と言っていました(笑い)。
室井:わかる、わかる(笑い)。
※小笠原文雄先生が7月17日、「なんとめでたいご臨終の迎え方」をテーマに、東京・小学館で講演会を開催し「在宅医療」の奇跡と「いのちの不思議」について話す予定。
詳しい内容はhttps://sho-cul.comで。
撮影/横田紋子
※女性セブン2017年7月13日号