ところで釜山の慰安婦像は普通「総領事館前」といわれるが、実は正確にいうと「総領事館裏」である。慰安婦像があるのは総領事館裏門前の歩道なのだ。像の設置以来、裏門は閉鎖されているので通行人は通りがかりに「少女像」に気付いても何のことかわからない。
6月に釜山総領事を解任された森本康敬・前総領事は、地元の区長を説得し設置直後の慰安婦像撤去をいったんは“成功”させている。しかし反日世論(?)の圧力に屈した区長の“裏切り”で後に像は黙認となり今にいたる。釜山慰安婦像の行方は中東のドバイ総領事から転じた後任の道上尚史総領事の手にゆだねられることになった。
釜山総領事はこれまではノンキャリア(中級職)のコリア・スクール外交官の“上がり”のポストだった。今回、同じコリア・スクールでも道上氏のようなキャリア(上級職)の就任は史上初めての異例人事だ。よくいえば、釜山慰安婦像問題解決への日本政府の強い意思をアピールしたといえなくもない。
ただ、前任の森本氏は“業績”があったにもかかわらず、日本滞在中に新聞記者との私席の雑談で対韓強硬策に不満を洩らしたことが官邸に伝わり、わずか在任1年で解任された。官邸に逆らえない外務省のキャリアたちが、いわれるままにノンキャリアの森本氏の首を切ったかたちだが、無理な人事で起用された道上氏は肩の荷が重い。
5月に就任した文在寅・新大統領は慰安婦問題の今後について、政府間合意の見直しや破棄、再交渉という言葉は慎重に避けている。日本側には合意履行の懸案として日本公館前の慰安婦像撤去・移転という要求があるが、韓国側には合意をいじる緊急性はないからだ。