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2017.07.09 16:00  週刊ポスト

【著者に訊け】高橋順子氏 異色作家を描く『夫・車谷長吉』

「先日もね、長吉はちょうど今の時期に咲くドクダミの白い花が好きだったから、忌日を十薬忌にしてはどうかという人がいたんです。十薬は歳時記にもあるドクダミの別名で、確かに彼は毒にも薬にもなった人かもしれないなあって(笑い)」

〈車谷嘉彦と署名のある絵手紙をもらったのが、最初だった。一九八八年九月十二日、東京本郷の消印〉

 青土社時代の元同僚から手渡されたその絵手紙には、〈青い空っぽのガラス壜〉が描かれ、〈ただならぬ気配のたちこめる肉太の字で、余白がびっしり埋められていた〉。文面には〈高橋順子詩集、三冊を借りて読んだ。孤独な生い立ちの木〉などとあったが、高橋氏はその後届いた手紙にもほとんど返事をしていない。

「当時は面識もありませんし、独り言みたいな手紙も多いから返事の書きようがなくて。絵の方も後に長吉の本の表紙になるほど味のあるものだったのに、私も目のない女です(苦笑)」

 その後は自身が主宰する「書肆とい(しょしとい)」のPR誌や詩集を送るなどしたが、高橋氏が花椿賞の授賞式に招いた時も、長吉は彼女を遠巻きに眺めるだけだった。

「私は『そろそろ顔を見せなさいよ』というつもりで招いたんですけどね。普段の長吉は傍若無人なおしゃべりで、平気で嘘も書くわりに、女性には臆病でした」

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