〈ここに何とも皮肉な現状がある。1980年代後半から日本の大学や企業がケニア人ランナーを採り始め、世界レベルで活躍する選手が何人も生まれてきた。引退した彼らは、日本で学んだマラソン練習のノウハウを母国に持ち込み、ますます強くなっている。日本がケニア人を育てているようなものでもあるのだ。〉
──北京五輪で優勝した日本育ちのサムエル・ワンジルは日本で学んだことは「我慢」だと言ってましたね。
「日本人はさ、農耕民族でね、勤勉で真面目で我慢強くて。同じことを繰り返しやることを厭わない。マラソンにはうってつけの国民性だと思う。野口(みずき)さんの『走った距離は裏切らない』という言葉の通りなんですよ。高橋(尚子)さんだって、練習量は僕よりはるかに多かった」
──その日本人の特性が社会全体から薄れてきているようにも思います。
「そうは思いたくないけど、マラソンに関してはそう思う。ケニア人のほうが練習するんだからね。彼らは僕らの練習を古いとは言わないもの」