横たわる弟の亡骸を見た時はもちろん強ショックを受けた。とうとうこの日が来たかとも思う。

 救いは「どう~もお~」と、笑いかけてくれる弟妻の姉のM子ちゃん(61才)。

「私ら、家から3回、葬式出してんだから、ベテランだっぺな」

 こんな時は、できるだけふだん通りの声を出すこと。笑うこと。M子ちゃんの顔にはそう書いてある。よし、この空気に乗っかろうと決めた。それなのに、弟の家から外に出て、誰もいない田舎道を歩き出したら、ダメだった。

 筑波山のふもとに広がるこの景色を、弟はもう見ることはないのか。そう思うと、うぉ~っと獣じみた声が喉の奥から出た。それをきっかけに、発作のような涙が、ふとした時にお腹の底からこみ上げてくる。まったく予想もつかなかったことだった。

 翌朝、弟の家に行くと、亡骸の上に大工道具のノミが一丁、乗っている。「お父ちゃんから、『おれが死んだらこうやってくろ』と言われてたんだよ。大工が死んだ時はそうするんだって」と、姪っ子(26才)が笑う。

 そんな話をしていたところへ、「このたびはご愁傷様でした」と葬儀社の人がやってきた。

「葬儀はお金をかければいいわけじゃないですからね」と、節約をするポイントを淡々と教えてくれる。祭壇、お棺、骨壺…。当たり前だけど、1つ1つに値段があると知ると、葬儀という儀式に重みがついた気がした。

◆お通夜は久しぶりに会う親戚や組内の人情に、泣いたり笑ったり

「まったく知らなかったよ」と涙まじりに始まった通夜ぶるまいも、「ま、まま」とお酒を酌み交わし出すと宴会。

「泣いてばかりいられない」と身内の葬式を経験した人はみんな言うけど、確かにね。子供の頃に遊んだ従妹たちも還暦前後だし、私が子守りをしてやった“子供ら”も、おっさんとおばさんだ。

“葬儀の花”といっていいのかどうかわからないけど、通夜は、故人のおかげで顔をそろえた人たちの社交場。親戚のおばさんたちと、葬儀会場の広い畳の間に枕を並べて、「広子、お線香を絶やすな」と言われると、子供の頃に戻ったみたい。安心してまた眠りに落ちた。

◆火葬した骨を見たりつまんだりするとどこかちょっとシラケるのはなぜ?

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