「日本の終末期医療は病院という枠組みからなかなか離れられなかったけど、日野原先生が独立型ホスピスという新しい道を示してくれました。また、ホスピスには緩和ケアを現場で学んだ医師や看護師の力が必要不可欠です。そのために日野原先生は経済的援助のもとに、1年間しっかり研修を受けられる制度を作ったのです。
1年ホスピス現場で経験すれば患者さん・ご家族に対しての具体的なケアを学べます。そんなふうに学んだ医師や看護師たちが今、だんだんと育ってきていて、とても心強い。これからその人たちがわが国のホスピスの中核を担うだろうと思います」
生涯現役を貫いたことも、多くの医師を励ましたと今年70才になる山崎院長が言う。
「先生はいくつになっても権威にはならず、常に患者のベッドサイドに目を向けて臨床医を続けてこられた。私はちょうど35才違いますが、働ける限り先生のように臨床医として生涯現役を目指したい。80才過ぎてからホスピスに取り組み90才でベストセラーを書いた先生から逆算すると70才はまだまだ若い(苦笑)。あと35年あると思うとワクワクします」
日野原先生の考えを受け継ぐ鎌田さんは、高齢者を地域に受け入れる新たな枠組みを模索している。
「ぼくは昨年、『地域包括ケア研究所』を立ち上げました。医療介護従事者だけでなく、地域住民やボランティア団体などを一堂に集める一方で、国内に約800万ある空き家を活用して介護サービスの拠点やシングルマザーのシェアハウスをつくるなど、地域社会の多様な問題に応える施設を目指しています。高齢化が進むなか、地域住民が助け合い、自由に生きられることを目指しているのです」(鎌田さん)
日野原さんの意志を受け継ぐのは、鎌田さんや山崎院長だけではない。その1つが、24時間対応の電話健康相談や、悩みに応じたセカンドオピニオンの医師を紹介するサービスを展開する会社『ティーペック』。砂原健市社長は過去、日野原さんから「欧米では当たり前のセカンドオピニオンは、いずれ日本でも浸透する」と背中を押してもらったと語っている。
このサービスは「患者ファースト」の思想を最大限に実現したものだといえよう。
島根県雲南市の介護施設『ケアポートよしだ』も、生前日野原さんが運営委員長を務め、コンセプトを作り上げた。
利用者だけでなく町全体に開かれた公開講座や、町民も利用できる温水プールなどを有する、地域全体を巻き込んだ施設だ。要介護で施設に入らなければならなかったとしても地域との交流を大事にしながら年を重ねることができる、「人生の終盤を輝かせる」場所である。
※女性セブン2017年8月17日号