国内

患者のために奔走した日野原重明さんの意思を継ぐ人々

鎌田實さんが日野原さんから受け継いだこととは(諏訪中央病院のHPより)

 聖路加国際病院(東京都中央区)の名誉院長だった日野原重明さん(享年105)が7月18日に逝去した。胃ろうや経管栄養などの延命治療を拒否し、自宅で家族が見守るなかでの大往生だった。

 死の間際まで現役を貫いた日野原さんの想いは、後人にしっかりと受け継がれる──。約20年前から親交がある諏訪中央病院名誉院長の鎌田實さん(69才)の脳裏には、盟友のさまざまな姿が浮かぶ。

 2005年、2人で宮崎県で講演を行った際、当時93才の日野原さんは重いかばんを両手に持ちながら「ぼくは階段を上らないとダメなんだ」と言ってエスカレーターをヒョイヒョイと駆け上がった。

 昨年4月の佐賀県での講演では、「鎌田くんの話を聞きたいんだ」と用意したベッドに寝そべって鎌田さんの講演を聴いていたが、その最中にいびきをかいて眠りこんだ。そこまでして話を聴こうとする好奇心に鎌田さんは驚いたという。

 ある時、日野原さんは鎌田さんにこう言った。

「鎌田くん、『ラ』じゃないとダメなんですよ」

 どういうことか。

「例えば患者に『おはようございます』と言う時、ドレミファの『ド』の音程で言うと、静かで暗い感じになる一方、『ラ』の音程だと明るい感じがして、鬱屈したホスピス患者の心持ちがふっと軽くなることがある。要は患者の容体によって声の高さを変えてコミュニケーションするわけです。“先生は患者のためにこんなことまで考えていたのか”と驚きました」(鎌田さん)

 鎌田さんが名誉院長を務める諏訪中央病院は、周囲を八ヶ岳連峰などの山々に囲まれている。中庭にはボランティアが手がけるハーブガーデンがあり、医師と患者、スタッフにボランティアまでが「いい天気ですね」「気持ちがいいですね」と互いに声をかけあう。日野原さんの教えの通り、患者とのコミュニケーションと心の通い合いを大事にする病院である。

「日野原先生から学んだのは、患者を中心とする医療です。現代医療は臓器という“部分”にこだわり、患者を“丸ごとの人間”として見ようとしません。患者の人生や考え方をしっかりと聞き、医療従事者と患者が信頼関係を結びながら、その先の治療方針を共同作業で決めていくことがいかに大事か。それを日野原先生は常に語っていました」(鎌田さん)

 ホスピス緩和ケアを行うケアタウン小平クリニック(東京都小平市)の山崎章郎院長も日野原さんの意志を受け継ぐ1人だ。日野原さんとは25年ほど前に知り合い、2005年にクリニックを開設後は、何度か講演を依頼した。

「最後の講演は100才の時でした。その時“5年後にまた講演をお願いできますか?”と聞いたら、先生は“いいですよ”とスケジュール帳にメモをした。前向きで楽天的な姿勢に驚きました」

 そう笑顔で語る山崎院長は、同業者である日野原さんに何度も勇気づけられたという。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン