だが蔡氏は、最近の日本人は、そんな先人の遺した“日本精神”を失いかけているのではないかと嘆くこともあった。蔡氏は、国際社会における日本の弱腰姿勢に苛立ちを覚え、また現代日本人の精神的荒廃に心を痛めていた。蔡氏はこううったえる。
《かつての日本人は立派だった。公職に就く者の心構えは民衆の絶大な信用を集め、人の生命を預かる者の使命感に人々は崇敬の念をいだいたものである。今一度、故きを温ね日本人が世界に誇った「魂」を学ぶべきであろう》(『台湾人と日本精神』)
そしてなにより、蔡氏は、現代の日本人が先人への感謝を忘れ、日本人としての誇りや気概を失いかけている現状を憂いていたのである。
蔡焜燦氏は、“遺言”を新装著書『台湾人と日本精神』(小学館)のあとがきにこう残していたのだ。
《私は死ぬまで日本と日本人にエールを送り続ける。自虐史観に取り付かれた戦後の日本人に、かつての自信と誇りを取り戻してもらいたいのだ。
(中略)
何度でも言わせていただく。
「日本人よ! 胸を張りなさい!」
愛してやまない日本国と日本人へ、私からの“遺言”である》
●文/井上和彦(ジャーナリスト)
※SAPIO2017年9月号