日本からの客人を迎える蔡氏は、決まって一流レストランで一流の台湾料理を振舞い、そして軽妙な語り口で日本人が知らない感動的な日台交流秘話を披露して客人を感動の渦に包み込むのだった。
これまで私も、数多の日本人を蔡焜燦氏に紹介して宴席を共にしてきたが、感動のあまり涙を流す者も多かった。そうして会食が終わる頃には、皆はもれなく台湾が好きになり、なにより日本人としての誇りを取り戻して日本が好きになっていたのである。その技はまさに“老台北マジック”ともいうべきものだった。
そしてそんな宴席で蔡氏はいつも皆にこう投げかけた。
「日本人よ、胸を張りなさい! そして自分の国を愛しなさい!」
蔡氏は、半世紀にわたる台湾の日本統治時代を高く評価する。日本政府は莫大な金額を投じて、道路や鉄道などのインフラ整備をはじめ、台湾人のための医療機関や学校の設置などを行った。このことによって台湾はまたたく間に近代化されていったのだった。蔡氏は、とりわけ当時の日本の教育が今日の台湾発展の基礎を築いたと称賛する。
台湾ではいまでも、「勤勉で正直、そして約束を守る」などもろもろの善いことを“日本精神”(リップンチェンシン)と呼んで語り継がれている。蔡氏は、台湾人がもっとも尊ぶ日本統治時代の遺産こそ、「公」を顧みる道徳教育などの精神的遺産だとし、それゆえに台湾人はどの国の人々よりも日本を愛し尊敬しているのだという。