スポーツ

智弁和歌山の「伝説の捕手」が甲子園に帰ってきた 

 高校の後、阪神時代にも楽天時代にも中谷さんに取材する機会があったが、20年間、ずっと言い出せず、私の胸の中に溜まっていた。

 あの夏の甲子園の決勝戦直前の試合前取材だ。ある新聞社の記者が中谷さんに質問した。

「君、お父さんいてないけど理由はなんで? 死んだん?」

「えっ。いえ、離婚です」

 その記者は「亡き父に捧げる一球」のような、お涙頂戴の記事を考えていてアテが外れたのか、中谷さんの返事を聞いてそのままどこかに行ってしまった。

 私はその場でその記者に抗議しなければならなかった。多感な年ごろの高校生にとって、「親の離婚」は話したいことではないだろう。しかもこれから大事な試合をする直前だ。どんな記事を書かれるのか、選手が不安を抱えたまま試合に入ることになってしまう。

 だが私はその場で凍り付いて、中谷さんのためになにもしてあげられなかった。試合は中谷さんが好プレーを見せて優勝したが、ずっと私の中に引っかかってた。

 私の「告白」を中谷さんはじっと聞いて、「ああ、そんな取材ありましたねえ。昔話です」と笑い飛ばしてくれた。

 だがそのあとのひと言にぞくりとした。

「でも、その質問をした記者の顔は今でも覚えています」

 やはり深く傷ついていたのである。

 高校野球の選手はどんな質問にも一生懸命答えようとする。だからこそ、記者の姿勢により高いモラルが必要になる。なにを聞いてもいいというものではないと私は考える。中谷さんに取材するたびに私は考えさせられることばかりだ。

 試合は智弁和歌山が6点を先制されたが、2本塁打で逆転勝利した。甲子園ではコーチはベンチ入りできないので、スタンドで観戦していた中谷さんは、

「スタンドで高校野球見るなんて中学生以来ですよ。一智弁ファンとして祈ってました」

 と報道陣を笑わせた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷の妻・真美子さん(写真:西村尚己/アフロスポーツ)と水原一平容疑者(時事通信)
《水原一平ショックの影響》大谷翔平 真美子さんのポニーテール観戦で見えた「私も一緒に戦うという覚悟」と夫婦の結束
NEWSポストセブン
大ヒット中の映画『4月になれば彼女は』
『四月になれば彼女は』主演の佐藤健が見せた「座長」としての覚悟 スタッフを感動させた「極寒の海でのサプライズ」
NEWSポストセブン
国が認めた初めての“女ヤクザ”西村まこさん
犬の糞を焼きそばパンに…悪魔の子と呼ばれた少女時代 裏社会史上初の女暴力団員が350万円で売りつけた女性の末路【ヤクザ博士インタビュー】
NEWSポストセブン
華々しい復帰を飾った石原さとみ
【俳優活動再開】石原さとみ 大学生から“肌荒れした母親”まで、映画&連ドラ復帰作で見せた“激しい振り幅”
週刊ポスト
中国「抗日作品」多数出演の井上朋子さん
中国「抗日作品」多数出演の日本人女優・井上朋子さん告白 現地の芸能界は「強烈な縁故社会」女優が事務所社長に露骨な誘いも
NEWSポストセブン
死体損壊容疑で逮捕された平山容疑者(インスタグラムより)
【那須焼損2遺体】「アニキに頼まれただけ」容疑者はサッカー部キャプテンまで務めた「仲間思いで頼まれたらやる男」同級生の意外な共通認識
NEWSポストセブン
学歴詐称疑惑が再燃し、苦境に立つ小池百合子・東京都知事(写真左/時事通信フォト)
小池百合子・東京都知事、学歴詐称問題再燃も馬耳東風 国政復帰を念頭に“小池政治塾”2期生を募集し準備に余念なし
週刊ポスト
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏による名物座談会
【江本孟紀×中畑清×達川光男 順位予想やり直し座談会】「サトテル、変わってないぞ!」「筒香は巨人に欲しかった」言いたい放題の120分
週刊ポスト
大谷翔平
大谷翔平、ハワイの25億円別荘購入に心配の声多数 “お金がらみ”で繰り返される「水原容疑者の悪しき影響」
NEWSポストセブン
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
【全文公開】中森明菜が活動再開 実兄が告白「病床の父の状況を伝えたい」「独立した今なら話ができるかも」、再会を願う家族の切実な思い
女性セブン
ホワイトのロングドレスで初めて明治神宮を参拝された(4月、東京・渋谷区。写真/JMPA)
宮内庁インスタグラムがもたらす愛子さまと悠仁さまの“分断” 「いいね」の数が人気投票化、女性天皇を巡る議論に影響も
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン