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智弁和歌山の「伝説の捕手」が甲子園に帰ってきた 

 中谷さんは自分の高校生時代について、こう振り返る。

「僕らの時代は学校は野球では無名で、有名校に練習試合の申し込みを断られたりしていました。だから野球でこの学校を有名にするんやって、みんなギラギラしてた」

 高校生時代の中谷さんを取材していて、すぐ私はその魅力にハマった。中谷仁は私の高校野球取材歴25年のなかで、伝説の捕手であり、主将である。

 肩が強く、1イニングで走者を二度、牽制で刺したこともある。

 高嶋仁監督の信頼も厚い、どころではなかった。試合前に高嶋監督に相手校の分析を尋ねると、

「そういうのは全部中谷に任せてあるんですわ。あいつ、ホテルの私の部屋に勝手に入って、(相手校の)ビデオを見てます」

 それがウソではないのは、試合中の投手交代も、中谷が指示していたことだ。守備のとき、中谷が右手人差し指をベンチに向けてくるくる回すと、高嶋監督がおもむろにタイムをとって球審に投手交代を告げるのである。

 それほど信頼されていたから、実はドラフトで阪神に指名されたあとも、学校側から引き留められた。当時の藤田照清理事長(故人)から、こう声を掛けられた。

「君には大学に進んでもらって、将来、高嶋先生のあとを継いで智弁和歌山の監督になってほしい」

 18歳の高校生に学校のトップが将来の監督を約束するなどという話は、前代未聞だろう。

 それでも中谷さんは大学進学より働かねばならない事情があった。家が貧しかったからである。

 中谷さんの家は母子家庭で、特待生制度のない智弁和歌山から誘われたとき、

「母がどうやって入学金とか授業料を工面してくれたのか、今もわからない」

 という。

 そこに絡んで、私は中谷さんに謝罪しなければいけないことがあった。

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