ペギーさんは、最後に「では、本番ではなく、終わったあとのアトラクションで地元の人にこの曲を歌ってくれませんか」と妻城さんに言われ、しぶしぶこれに応じた。しかし、それは妻城さんの“策略”にほかならなかった。

 本番前日、高知入りしたペギーさんは、本番台本に『南国土佐──』が入っていたことに仰天する。しかし、彼女はプロのシンガーである。台本が与えられれば、どんな場合でも、恥ずかしくない歌を披露するのがプロだと思っていた。

 こうして、いよいよ『南国土佐を後にして』を全国の人たちが知る歴史的な「時」を迎えるのである。

◆押し寄せる「波」

(しまった)

 ペギーさんは、本番で歌い始めた時、そう思った。会場が、シーンと鎮まりかえってしまったのだ。

(やっぱり失敗だった……私には、似合わない曲だったんだ)

 あまりにシンとした会場に、ペギーさんには後悔がこみ上げてきた。しかし、歌が「よさこい節」のくだりにやってきた時、うねりのような熱気が、ステージに向かって押し寄せてきたのだ。

(なに?)

 ペギーさんは歌いながら、その波のような圧力に驚き、そして、全身で受けとめていた。それまで経験したことがないものだった。観客の感動が、大きな塊となって、直接、自分にぶつかってくるかのようだった。ペギーさんは言う。

「初めは、この人、何を歌い始めたんだろうって、皆さん、そういう顔をしていたような気がします。私がいつも歌っているものとは違うなって。前のほうのお客さんは、顔が見えていますからね。私、やっぱりこの歌、歌うんじゃなかったなって、思ったんですよ」

 しかし、それは、まったくの勘違いだったのだ。

「そう思いながら、歌っていたら、『よさこい節』のところに来たときに、皆さんがウォーとなって手拍子してくれて、全員が歌ってくれたの。私、思わず歌詞を忘れそうになって……。一人一人のお客さんが温かく私に手を差し伸べてくれて、それが大きなうねりのように手拍子に変わっていったの。異様に熱い何かが、まるで波が打ち寄せてくるように、何度も何度も、私に迫ってきました。三番では、もう会場が大合唱で……。本当に、客席と舞台が一体になった感じでした」

 形容しがたい感動の中で、ペギーさんは三番まで歌いつづけた。それは、想像を超えた反響だったのである。

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