片山:社会を清澄化していくなかで、社会の調整役でもある総会屋ヤクザを追い立てた。そして、白でもなく黒でもない曖昧な領域や、国家や個人の間に存在した中間団体を認めない社会になっていった。
暴対法で暴力団では生きていけない。労働組合もイデオロギーが機能せず成り立たない……。
佐藤:モンテスキューも『法の精神』で民主主義を担保する存在が、教会やギルド(職能集団)などの中間団体だと語っています。しかし法の支配を徹底した結果、曖昧な存在や中間団体が排除され、法に縛られない掟の領域や慣習の世界を認めない窮屈な社会になってしまった。
片山:1999年の国旗国歌法もその流れで語れます。国歌や国旗の超越的な地位を否定し、法制化しました。右派の人たちが日の丸と「君が代」を守りたいという焦りから法制化に踏み切ったわけですが、それが大きな間違いだった。
佐藤:おっしゃる通りです。裏を返せば、法律さえ変えれば、国旗を赤旗に、国歌を「インターナショナル」にだってできる。
●かたやま・もりひで/1963年生まれ。慶應大学法学部教授。思想史研究家。慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞受賞。近著に『近代天皇論』(島薗進氏との共著)。
●さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』など。共著に『新・リーダー論』『あぶない一神教』など。本誌連載5年分の論考をまとめた『世界観』(小学館新書)が発売中。
■構成/山川徹 ■撮影/太田真三
※SAPIO2017年9月号