冨士:なんだか、映画の『アンタッチャブル』に出てきそうなクラシックな電話ですね。先生、いつもご自分で電話にお出になるんですか?
佐藤:そうですよ。
冨士:へえーーっ! 私はさっき、先生がご自分で玄関まで出てらしたのさえ、びっくりしたのに(笑い)。ほんとにお若いですね。
佐藤:なんで? 車いすだと思ったの? 私、せっかちだから。お手伝いさんがいても、お風呂場を掃除してる時なんか、すぐに出られないでしょう。どうせ私に回ってくるんだから、最初から出た方が早い。
冨士:でも、相手も「まさか」って。
佐藤:みんな驚くんですよ(笑い)。
冨士:そんな大家の女性作家はいませんからね。
佐藤:それほど大した作家じゃないですよ。主婦のなれの果てが作家になっただけだから。
冨士:先生もそうですが、ひとりっていいですよね。セリフを覚えるのでも、叫ぼうとも何をしようとも誰にも叱られないし、誰にも何も言われないですから。
佐藤:冨士さんは、結婚は1回?
冨士:もちろんです。あんな野蛮なこと、1回で充分です。
佐藤:そうですか。それは失礼しました(笑い)。
冨士:40半ばで離婚して、そのまんまなんです。男の人がいないと自由でいられるんですよ。心も何もかも全部自由。誰の顔色も見ないで、誰にも遠慮しないで。全部の時間が自分の時間だから、夜中の3時、4時にお風呂に入ろうと、誰にも何にも言われない。自由でシンプル。
佐藤:それは確かに、自由だわね。
冨士:食べるものだって、自分の好きなものだけ買ってきて食べればいいわけですし。つい食べすぎちゃって後悔しますけど(笑い)。
佐藤:何が体にいいとか、何を食べちゃいかんとかって、よく言うでしょう。でも、自分が食べたいと思うものはその時、体が欲してるんだから、食べればいいんですよ。
冨士:それ、信じます。でも、自分が作ったものはかわいいから、全部食べちゃうんです。それがいけないのよ。
佐藤:要するに、冨士さんは健康だから食べられるのよ。90も過ぎたら一汁一菜で充分。やがて、食べられなくなりますからね(笑い)。
◆佐藤愛子(さとう・あいこ)
1923年大阪府生まれ。1969年『戦いすんで日が暮れて』で直木賞、1979年『幸福の絵』で女流文学賞、2000年『血脈』の完成により菊池寛賞、2015年『晩鐘』で紫式部文学賞を受賞。エッセイ集『九十歳。何がめでたい』が大ベストセラーに。
◆冨士眞奈美(ふじ・まなみ)
静岡県生まれ。1956年『この瞳』の主役でデビューし、俳優座付属養成所を卒業。翌1957年にNHKのテレビ専属第1号になり、以来、映画や舞台、ドラマやバラエティー番組などで幅広い活躍をしている。句集『瀧の裏』など著作も多い。
●構成/佐久間文子 ●撮影/太田真三
※女性セブン2017年8月24・31日号