ライフ

介護放棄 介護施設職員も危惧する、その悲劇的な実態

家族なら必ず介護すると考えるのは過去の話

 すでに亡くなった父や母の死亡届を出さず、親に支払われる年金や恩給を自分の収入としていた子どもが逮捕された。そんなニュースを聞くようになってずいぶん経つ。最近は、よっぽどの事例でないと報じられなくなっているが、それは、件数が減ったのではなく、珍しいことではなくなったからだ。ライターの森鷹久氏が、事件を未然に防ぎたいと願う介護職の人たちの思いが、家族による介護に対して無力な制度に阻まれる現実を追った。

 * * *
「自宅床下から見つかった母親の遺体は綺麗に白骨化していて、もはや死亡時期もわからないくらいでした。外傷もなく病死であったと思われますが…。同居していた息子は“気がつかなかった”の一点張り。その後、息子は罪に問われることなくシャバで暮らしているのです」

 超高齢化時代に突入したわが国では、すでに珍しいことではなくなった老人の孤独死。一昨年、関西某県で発生した事件について、警察幹部は冒頭のように述べ、下唇を噛みしめる。

「息子には、十数年に渡って母親の年金を不正に取得していたのではないか? という疑惑がかけられていました。母親は十数年前には亡くなっていたことがわかったからです。ただし、息子が直接殺したわけではない。母親の通院記録などによれば、腎臓がかなり悪かったようで、最後は息子にも看取られず一人布団の上で亡くなり、息子が遺体を隠していたのではないかと思われますが、推測の域は出ませんでした」(県警幹部)

 死んだ親の存在を隠し、その年金をせしめるダメ子供。似たようなニュースを耳にしたこともあるが、このような事件は明日にも、いや、今まさにそこら中で起きようとしている。群馬県南部のデイケア施設で責任者を務める庄司さん(仮名・40歳)は、入居者の男性が“被害者”にならないかと危惧する。

「認知症の男性Aさん(70代)は、半身不随の重度障害者で、当施設に通われています。自宅では家族の方が面倒を見られているということですが、服は常に汚れていて、髭も髪もボサボサ。家族の方がしっかりケアされているのか、送迎のついでに自宅を訪ね、確認させていただいたのですが……」

 Aさん宅を訪れた庄司さんは、そこで驚くべき光景を目にした。毎朝、施設の職員がお邪魔する玄関と、すぐ横の和室だけが綺麗な状態に保たれていたものの、その奥の居間や和室にはゴミが溢れており、ゴミの中にはなんと、Aさんよりも高齢の寝たきり女性が、カビだらけの布団に横たわっていたのだ。Aさんの介護をしている、と主張するのは、Aさんの息子の妻であるB子(50代)。

「B子さんは毎日笑顔でAさんを送り出し、職員との関係も良好でした。しかし、Aさんの様子がおかしいことや家庭状態について職員が尋ねると態度を豹変させた。たかが施設の職員が口を出すな、お前たちはこの家やAさんの財産を乗っ取る気か? と罵声を浴びせられたんです」

 役所やAさん宅の近所を訪ね、Aさん一家について調査をした庄司さんは、そこで初めて、Aさんが置かれた状況、そしてAさんやAさんの母がすでに「被害者」になっていることを知った。

関連キーワード

関連記事

トピックス

麻原が「空中浮揚」したとする写真(公安調査庁「内外情勢の回顧と展望」より)
《ホーリーネームは「ヤソーダラー」》オウム真理教・麻原彰晃の妻、「アレフから送金された資金を管理」と公安が認定 アレフの拠点には「麻原の写真」や教材が多数保管
NEWSポストセブン
”辞めるのやめた”宣言の裏にはある女性支援者の存在があった(共同通信)
「(市議会解散)あれは彼女のシナリオどおりです」伊東市“田久保市長派”の女性実業家が明かす田久保市長の“思惑”「市長に『いま辞めないで』と言ったのは私」
NEWSポストセブン
左から広陵高校の34歳新監督・松本氏と新部長・瀧口氏
《広陵高校・暴力問題》謹慎処分のコーチに加え「残りのコーチ2人も退任」していた 中井監督、部長も退任で野球経験のある指導者は「34歳新監督のみ」 160人の部員を指導できるのか
NEWSポストセブン
松本智津夫・元死刑囚(時事通信フォト)
【オウム後継「アレフ」全国に30の拠点が…】松本智津夫・元死刑囚「二男音声」で話題 公安が警戒する「オウム真理教の施設」 関東だけで10以上が存在
NEWSポストセブン
二刀流復帰は家族のサポートなしにはあり得なかった(getty image/共同通信)
《プールサイドで日向ぼっこ…真美子さんとの幸せ時間》大谷翔平を支える“お店クオリティの料理” 二刀流復帰後に変化した家事の比重…屋外テラスで過ごすLAの夏
NEWSポストセブン
9月1日、定例議会で不信任案が議決された(共同通信)
「まあね、ソーラーだけじゃなく色々あるんですよ…」敵だらけの田久保・伊東市長の支援者らが匂わせる“反撃の一手”《”10年恋人“が意味深発言》
NEWSポストセブン
鉄板焼きデートが目撃されたKing & Princeの永瀬廉、浜辺美波
《デートではお揃い服》お泊まり報道の永瀬廉と浜辺美波、「24時間テレビ」放送中に配慮が見られた“チャリT”のカラー問題
NEWSポストセブン
8月に離婚を発表した加藤ローサとサッカー元日本代表の松井大輔さん
《“夫がアスリート”夫婦の明暗》日に日に高まる離婚発表・加藤ローサへの支持 “田中将大&里田まい”“長友佑都&平愛梨”など安泰組の秘訣は「妻の明るさ」 
女性セブン
経済同友会の定例会見でサプリ購入を巡り警察の捜査を受けたことに関し、頭を下げる同会の新浪剛史代表幹事。9月3日(時事通信フォト)
《苦しい弁明》“違法薬物疑惑”のサントリー元会長・新浪剛史氏 臨床心理士が注目した会見での表情と“権威バイアス”
NEWSポストセブン
海外のアダルトサイトを通じてわいせつな行為をしているところを生配信したとして男女4人が逮捕された(海外サイトの公式サイトより)
《公然わいせつ容疑で男女4人逮捕》100人超える女性が在籍、“丸出し”配信を「黙認」した社長は高級マンションに会社登記を移して
NEWSポストセブン
麻薬取締法違反で逮捕された俳優の清水尋也容疑者(26)
「同棲していたのは小柄な彼女」大麻所持容疑の清水尋也容疑者“家賃15万円自宅アパート”緊迫のガサ当日「『ブーッ!』早朝、大きなクラクションが鳴った」《大家が証言》
NEWSポストセブン
サントリー新浪剛史会長が辞任したことを発表した(X、時事通信フォト)
大麻成分疑いで“ガサ入れ”があったサントリー・新浪剛史元会長の超高級港区マンション「かつては最上階にカルロス・ゴーンさんも住んでいた」
NEWSポストセブン