国内

認知症の母、IHの登場で50年来の主婦の看板下ろす

認知症の母がガスコンロをIHに換え安全と引き換えに失ったのは…(写真/アフロ)

 認知症があり、ひとり暮らしに不安が多くなった母を自宅近くのサ高住(サービス付き高齢者住宅)に移してひと安心のN記者(53才・女性)。でも、母は安全と引き換えに失うものもあった。その1つが、得意だった「料理をする習慣」だ。

 * * *
 母がサ高住(サービス付き高齢者住宅)に引っ越したのは2014年の夏。父が他界してから約1年半の独居で母の認知症は進み、激やせして家の中は荒れ放題。その地獄から脱出させたい一心で、また母がいくつかの高齢者住宅や施設を見学して選んだ“その気”が変わらないうちにと、大急ぎで引っ越しを完了した。

 父と暮らした75平方mのマンションから25平方mのワンルームへ。散乱する大量の物の中から母の新生活に必要な衣類と少しだけ思い出の品、そして炊飯器、鍋、包丁、まな板を段ボールに詰め込んで、小さなトラックで運んだ。

 調理道具を持って出たのはほぼ私の独断だった。激やせするほど不規則な食生活になりつつも、調理は細々と続けているようだった母。認知症でできないことが増えるだろうが、身についた習慣はできるだけ残そうと思ったのだ。

 サ高住では作ってもらった食事を食堂でとることもできるし、居室にはミニキッチンがついている。朝食と夕食は食堂で居住者の人たちと一緒に、昼食は自炊と、母の新生活のプランを練った。我ながら見事なリハビリ案だと思っていたのだが…。

「炒め物とか煮物とか、簡単な調理は続けなよ。毎日、お散歩がてらに買い物行って」
「そうだね」
「慣れるまで、ヘルパーさんに調理を手伝ってもらうようにしたからさ」
「そうだね」
「ガスコンロじゃなくてIHだよ! 安全で最先端のキッチン。ワクワクするね~」
「そうだね」

 気負った私とは裏腹に、母は何を言っても無気力に返すだけ。今思えば母にとってはいちばん激動の時だったのだ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

どんな役柄でも見事に演じきることで定評がある芳根京子(2020年、映画『記憶屋』のイベント)
《ヘソ出し白Tで颯爽と》女優・芳根京子、乃木坂46のライブをお忍び鑑賞 ファンを虜にした「ライブ中の一幕」
NEWSポストセブン
相川七瀬と次男の凛生君
《芸能界めざす息子への思い》「努力しないなら応援しない」離婚告白の相川七瀬がジュノンボーイ挑戦の次男に明かした「仕事がなかった」冬の時代
NEWSポストセブン
俳優の松田翔太、妻でモデルの秋元梢(右/時事通信フォト)
《松田龍平、翔太兄弟夫婦がタイでバカンス目撃撮》秋元梢が甥っ子を優しく見守り…ファミリーが交流した「初のフォーショット」
NEWSポストセブン
世界が驚嘆した大番狂わせ(写真/AFLO)
ラグビー日本代表「ブライトンの奇跡」から10年 名将エディー・ジョーンズが語る世界を驚かせた偉業と現状「リーチマイケルたちが取り戻した“日本の誇り”を引き継いでいく」
週刊ポスト
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《即完売》佳子さま、着用した2750円イヤリングのメーカーが当日の「トータルコーディネート」に感激
NEWSポストセブン
国連大学50周年記念式典に出席された天皇皇后両陛下(2025年9月18日、撮影/JMPA)
《国連大学50周年記念式典》皇后雅子さまが見せられたマスタードイエローの“サステナブルファッション” 沖縄ご訪問や園遊会でお召しの一着をお選びに 
NEWSポストセブン
豪雨被害のため、M-1出場を断念した森智広市長 (左/時事通信フォト、右/読者提供)
《森智広市長 M-1出場断念の舞台裏》「商店街の道の下から水がゴボゴボと…」三重・四日市を襲った記録的豪雨で地下駐車場が水没、高級車ふくむ274台が被害
NEWSポストセブン
「決意のSNS投稿」をした滝川クリステル(時事通信フォト)
滝川クリステル「決意のSNS投稿」に見る“ファーストレディ”への準備 小泉進次郎氏の「誹謗中傷について規制を強化する考え」を後押しする覚悟か
週刊ポスト
アニメではカバオくんなど複数のキャラクターの声を担当する山寺宏一(写真提供/NHK)
【『あんぱん』最終回へ】「声優生活40年のご褒美」山寺宏一が“やなせ先生の恩師役”を演じて感じた、ジャムおじさんとして「新しい顔だよ」と言える喜び
週刊ポスト
林家ペーさんと林家パー子さんの自宅で火災が起きていることがわかった
《部屋はエアコンなしで扇風機が5台》「仏壇のろうそくに火をつけようとして燃え広がった」林家ぺー&パー子夫妻が火災が起きた自宅で“質素な暮らし”
NEWSポストセブン
1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト