「これは普通のプレー。あんなもの転ばなくても捕れる。ええカッコしいだな。まあ、性格なのかもしれないがキャッチャーはあくまで女房役だからね……」
このボヤキを皮切りに、野村氏からは捕手・中村への厳しい注文が相次いだ。まずは「構え方」だ。
「キャッチング云々の前に、ピッチャーが投げやすいように構えるという基本ができてないよ。捕手の構えというのは両ひざと両肩の四角形でストライクゾーンを作って構えてやらないといけない。右打者相手なら、キャッチャーの右肩が外角高めいっぱいのストライクになる。ピッチャーはミットをめがけて投げ込むにせよ、ストライクゾーンを示してやれば投げやすくなる。そういった細かいところへの気配りを求められるのがキャッチャーなんだよ」
前かがみ気味に構え、両肩と両ひざで作る“ストライクゾーン”が小さくなっている中村を見ながら、「ちょっと大ざっぱな性格かもしれないな」とつけ加えた。さらに「ミットの出し方も違うな」と野村氏は続ける。
「日本のキャッチャーは10人が10人とも、ピッチャーが投球動作に入った後、一度ミットを下げ、それから構え直している。メジャーのコーチが見たらみんな“NO”というよ。最初に構えた状態から、そのままキャッチングする捕手は、長い野球人生で見たなかでも、ヤクルトの古田(敦也)だけよ。
一度下げて構え直すと、逆球になったときにミットを動かすのが遅れる。パスボールの原因になる。中村も例にもれず、ミットを一度下げて構え直しているが、無駄なミスにつながるという意識がないんだろう。もっとも、誰もできていないのはアマチュアはもちろん、プロにもキャッチャーを指導できる指導者がいないからだがね」