この方針は役者生活六十年以上、84歳となった現在も続けており、今年も主演映画『海辺のリア』が公開、この秋には主演公演『肝っ玉おっ母と子供たち』が控えている。年齢的な肉体への負担を考えると苦しい選択といえるが、仲代は役者として必要な道だと捉える。

「役者はみんな、舞台もやっておいた方がいいと思います。ハリウッドでは、たとえばトム・ハンクスのような映画スターでも何年かに一度は舞台に立っています。映画を何十年やっていても、いきなり舞台をやりだしてもできません。でも、舞台をやっていればその経験は映画にも通じます。

 映画スターの中には素晴らしいスターもいるけど、その事務所なり映画会社が若い頃からちやほやしたせいで図にのってダメになった俳優はいっぱいいます。だから、そういう二重生活をしたことは私にとって非常にいい経験だったと思います」

 自らをあえて困難な状況におく過酷な役者道を、仲代はいつまでも続ける決意でいる。

「倒れるまでは役者をやろうかな、と思っています。本当なら縁側でお茶でも飲んでないといけない年齢なんですが、それでも『舞台は足腰だ』ということでアスリートのようなことをやって、今でも映画に出たり芝居をしているのは、ちょっと意地汚い気もしますが、それこそ『意地』のようなものでしょう」

 その「意地」、いつまでも見届けていたいと改めて思った。

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

※週刊ポスト2017年9月29日号

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