佐藤:主流派から冷遇されていた人にとって、田中外相誕生は出世のチャンスだったんです。
片山:田中眞紀子が外相だった2001年に金正男と見られる男が成田空港で拘束されました。しかし慌てて帰国させてしまった。彼を日本で確保しておけば、日朝外交の切り札になったのではないですか。
佐藤:おっしゃるとおりです。でも田中眞紀子さんが「そんなの怖いからすぐに帰しちゃいなさい」と政治主導で帰還させてしまったんです。 また9・11直後に田中さんは、アメリカ国防省がスミソニアン博物館に避難しているという機密をマスコミにしゃべってしまった。ここでやっと外務省内でも田中さんに対する危機感があらわになった。
片山:すごい話ですね。
佐藤:田中さんをパソコンにたとえれば、OSが違うから説明しても意味がないし、どんなにいいソフトをダウンロードしてみても、どう動作をするかが分からない(苦笑)。
片山:とはいえ、ある時期、小泉首相と田中外務大臣を圧倒的多数の国民が支持した。歯車が狂えば、田中総理誕生の可能性もあった。
佐藤:そうなったらトランプとドゥテルテを足して3で割ったような騒動になっていたでしょうね(苦笑)。
片山:なるほど。日本はトランプ政治の混乱を先取りした可能性もあったのか。
佐藤:そうです。だから鈴木宗男さんの政治家としての最大の功績は、田中眞紀子と刺し違えて公職から外したことなんですよ(※注2)。
※注2/鈴木の圧力で、アフガン会議にNGO代表が参加できなかったと田中が糾弾。鈴木は否定し、衆議院議員運営委員長を辞任(その後、自民党も離党)。田中は外相を更迭された。
●かたやま・もりひで/1963年生まれ。慶應大学法学部教授。思想史研究家。慶應大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。『未完のファシズム』で司馬遼太郎賞受賞。近著に『近代天皇論』(島薗進氏との共著)。
●さとう・まさる/1960年生まれ。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。主な著書に『国家の罠』『自壊する帝国』など。共著に『新・リーダー論』『あぶない一神教』など。本誌連載5年分の論考をまとめた『世界観』(小学館新書)が発売中。
※SAPIO2017年10月号