いつもとは全く違う整備が必要になった。本誌『週刊ポスト』は10月2日発売号で阪神園芸の仕事を密着ルポしたが、ナイターのある日の整備は午前9時から始まっていた。だが、この日は9人の職員が雨の止む12時過ぎまで動けなかった。普段なら、トラクターで内野の土を表面3cmほど掘り起こして土を乾かすが、時間がないので吸水パッドで水たまりをなくしてから新しい土を入れていった。
第2戦で撒かれた砂を取り除く作業も重要だった。金沢氏はいう。
「甲子園の土は保水力のある鹿児島の黒土と水はけの良い京都の砂を6対4でブレンドしています。砂が多くなり過ぎると表面が乾いて弾力性を失い、イレギュラーの原因にもなる。土と砂の比率が最適になるように、雨の中で撒いた砂はすべて回収するわけです」
どんな状況でも、細かな気配りを怠らない。水たまりのあった場所は何度も丁寧にトンボをかけてから土を入れた。午後3時過ぎには試合のできるグラウンドに仕上げ、予定通りの午後6時にプレイボール。
金沢氏は、「常に最悪の状態を想定してやっていますから」と涼しい顔で振り返ったが、中止ならシーズン2位の阪神が自動的に勝ち進んでいただけに、試合終了後には勝ったDeNAのファンが「ありがとう阪神園芸」のボードを掲げる一幕もあった。まさにCSの“陰のMVP”であった。
※週刊ポスト2017年11月3日号