ライフ

【平山周吉氏書評】伝説と事実を仕分けした西郷隆盛の評伝

家近良樹・著『西郷隆盛』

【書評】『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』/家近良樹・著/ミネルヴァ書房/4000円+税

【評者】平山周吉(雑文家)

 来年の大河ドラマ「西郷どん」開始を控え、書店には西郷本と幕末維新本が溢れかえっている。その中で「定本」的な位置を占める新刊が出た。家近良樹の『西郷隆盛』である。

「ミネルヴァ日本評伝選」シリーズの一冊だが、六百頁近い特大巻で、本の姿は上野の西郷さん像のように丸々としている。ちょっと値は張るが、西郷の人生を捉えようとするなら、このくらいの分厚さは必要なのだ。下級士族から身を起こし、生死の間を往復し、成し遂げた維新の大きさと成し遂げられなかった「未完の道義国家」建設の大きさ。その五十年の振幅を過不足なく語ったのが本書である。

 歴史家らしい抑制で、徹底して史料に基づこうとする著者の姿勢は一貫している。西郷の肉声は遺された膨大な書簡から聴き取り、伝説と事実の仕分けをしっかりとやり、「現存の史料からは解明しえないが」と留保をつけ、「さらに加筆すれば」と書いて自説を述べる。フェアプレイの歴史記述は、かえって読む方の想像力を刺激する。西郷の生涯を語るに欠かせない大久保利通、島津久光、徳川慶喜ら西郷と交錯した対立者の事績も周到に対照されている。

 著者は西郷の中にあった自殺願望、計略の甘さ、体調不良といった負の側面と、それとは切っても切れない「自分の生命を投げ捨てることで、相手の虚をつき、問題を一気に解決するという手法」に注目する。

関連記事

トピックス

鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《坂口健太郎との熱愛過去》25歳の永野芽郁が男性の共演者を“お兄ちゃん”と呼んできたリアルな事情
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン