ビジネス

スバル 「工場の流儀」への過度な畏怖が無資格検査招いた

日産に続き無資格検査でリコールに追い込まれるスバル

生産されたクルマの完成検査を無資格者が行っていたことが日産自動車、スバルと相次いで発覚した。自動車産業では昨年、三菱自動車による燃費不正が話題になったばかり。神戸製鋼のデータ改ざんなど他の分野の不祥事とあわせ、「日本のモノづくりは大丈夫か」といった論が世間を賑わしている。

 無資格者検査問題はもちろん良くない。それは日産、スバルとも素直に認めていることで、是正するのは当然のことだ。が、そのうえでまずハッキリさせておくべきは、この問題は品質とはまったく無関係ということだ。

 日本に限らず自動車メーカーにとって、品質管理は生命線のひとつだ。社によって実力の高い低いはあるが、それぞれ持てる力のすべてを注ぎ込むというくらいやっている。日産、スバルもそれは変わらない。

 一方の完成検査というのは、クルマを工場から出荷する前の段階で、車検に相当する検査をやること。新車を新規登録するには本来、クルマを全国の運輸支局という役所に持ち込んで車検を受ける必要があるのだが、毎月何十万台も売られる新車についてそんな手間ひまをかけていては大変だ。

 そこで登場するのが「型式認証制度」。あらかじめ国土交通省に「このクルマをこういう仕様で大量生産しますからね」と申請し、認められた車には型式が与えられる。スバルの人気車のひとつであるスポーツセダン「WRX STI」の場合は「CBA-VAB」という記号である。それが与えられたモデルについては運輸支局に持ち込まなくとも、ディーラーでナンバープレートの封印を行い、新車登録をして走り出すことができるのだ。

 型式をもらうための条件が、工場での完成検査だ。本来は運輸支局でやる新規検査をメーカーが出荷前に車検に相当する検査を代行して行い、完成検査終了証を発行する。それが運輸支局への持ち込みなしで新規登録を行ううえでの“お墨付き”となる。

 完成検査は誰でもできるわけではなく、車検をやれる指定工場、俗に言う民間車検場にいる、自動車検査員に相当する社内資格を取得した従業員だけが従事できることになっている。

 日産とスバルが不正とされているのは、その完成検査を、社内資格を持たない従業員がやっていたことだ。それは国の“お墨付き”を勝手に発行するようなもので、許される行為ではないのだが、これを品質と混同して語るのは適切ではないのも確かだ。

 スバルの吉永泰之社長が釈明会見を行ったさい、メディアから「スバル車は安全なのか安全でないのか」という質問が出た。それに対して吉永社長は、

「今の段階では安全であるとも安全でないとも言えない」

 と回答した。一見、優柔不断の極みにも思えるセリフだが、これは問題の性質をモロに表す言葉だ。

 国から“お墨付き”の発行権をもらっている自動車メーカーとしては、完成検査制度についてツッコミを入れられたことについて、自分たちの品質検査は完成検査をはるかに凌駕しているなどとは口が裂けても言えない。シンプルに言えば、品質や性能などクルマのハードウェアについてはきっちり仕上げているが、お墨付きに不備があったということだ。

 もちろん法令遵守がおろそかになっていたことは良くない。それはそれとして、今回のスバルの事例では、図らずも日本のモノづくりの良いところと後進的なところが同時に表れているのが非常に興味深く感じられた。

 スバルがなぜ検査で不備をやらかしたのか。それは検査そのものを軽視していたからではないという。吉永社長の説明は面白いものだった。

関連記事

トピックス

維新はどう対応するのか(左から藤田文武・日本維新の会共同代表、吉村洋文・大阪府知事/時事通信フォト)
《政治責任の行方は》維新の遠藤敬・首相補佐官に秘書給与800万円還流疑惑 遠藤事務所は「適正に対応している」とするも維新は「自発的でないなら問題と言える」の見解
週刊ポスト
優勝パレードでは終始寄り添っていた真美子夫人と大谷翔平選手(キルステン・ワトソンさんのInstagramより)
《大谷翔平がWBC出場表明》真美子さん、佐々木朗希の妻にアドバイスか「東京ラウンドのタイミングで顔出ししてみたら?」 日本での“奥様会デビュー”計画
女性セブン
パーキンソン病であることを公表した美川憲一
《美川憲一が車イスから自ら降り立ち…》12月の復帰ステージは完売、「洞不全症候群」「パーキンソン病」で活動休止中も復帰コンサートに懸ける“特別な想い”【ファンは復帰を待望】 
NEWSポストセブン
遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
《自維連立のキーマンに重大疑惑》維新国対委員長の遠藤敬・首相補佐官に秘書給与800万円還流疑惑 元秘書の証言「振り込まれた給料の中から寄付する形だった」「いま考えるとどこかおかしい」
週刊ポスト
「交際関係とコーチ契約を解消する」と発表した都玲華(Getty Images)
女子ゴルフ・都玲華、30歳差コーチとの“禁断愛”に両親は複雑な思いか “さくらパパ”横峯良郎氏は「痛いほどわかる」「娘がこんなことになったらと考えると…」
週刊ポスト
話題を呼んだ「金ピカ辰己」(時事通信フォト)
《オファーが来ない…楽天・辰己涼介の厳しいFA戦線》他球団が二の足を踏む「球場外の立ち振る舞い」「海外志向」 YouTuber妻は献身サポート
NEWSポストセブン
高市早苗首相の「台湾有事」発言以降、日中関係の悪化が止まらない(時事通信フォト)
《高市首相の”台湾有事発言”で続く緊張》中国なしでも日本はやっていける? 元家電メーカー技術者「中国製なしなんて無理」「そもそも日本人が日本製を追いつめた」
NEWSポストセブン
海外セレブも愛用するアスレジャースタイル(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
「誰もが持っているものだから恥ずかしいとか思いません」日本の学生にも普及する“カタチが丸わかり”なアスレジャー オフィスでは? マナー講師が注意喚起「職種やTPOに合わせて」
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「旧統一教会から返金され30歳から毎月13万円を受け取り」「SNSの『お金配ります』投稿に応募…」山上徹也被告の“経済状況のリアル”【安倍元首相・銃撃事件公判】
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《バリ島でへそ出しトップスで若者と密着》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)が現地警察に拘束されていた【海外メディアが一斉に報じる】
NEWSポストセブン
大谷が語った「遠征に行きたくない」の真意とは
《真美子さんとのリラックス空間》大谷翔平が「遠征に行きたくない」と語る“自宅の心地よさ”…外食はほとんどせず、自宅で節目に味わっていた「和の味覚」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 維新の首相補佐官に「秘書給与ピンハネ」疑惑ほか
「週刊ポスト」本日発売! 維新の首相補佐官に「秘書給与ピンハネ」疑惑ほか
NEWSポストセブン