伝説の渦中を生きた男はどんな現実にも淡々と向き合い、リハビリ時代を支え合った仲間など、あらゆる出会いに感謝していた。
「実はヤクルトには〈リハビリの系譜〉とも言うべき伝統がある。荒木大輔が黙々と頑張る姿を岡林や伊藤が見、その姿を石井一久や館山や由規が見て、自分も必ず先輩たちのように復活できると思えたことは大きかったと思う。それは一線級ほど故障する負の歴史とも言える。でも彼らプロはリスクも織り込み済みで、だから故障とも共存する境地である〈異常の正常〉を探るべくベストを尽くした。
それこそ2003年10月25日、彼が投じた109kmのスローボールに、観客は『もう復活を望んではいけないんだ』と悟り、不格好を曝させていいのかとザワついた。けれど彼は人がどう思おうと再びマウンドに立てた自分に納得していて、球速なんかどうでもよかった。それはあの時のトモさんの表情が物語っていたと思う」
生涯成績、37勝27敗25S。その“並み以下”の数字が全てだと言い切れる人の、常人には計り知れない強さ、潔さを、打ちのめされるように記す長谷川氏。まさに語りたくなる投手は書きたくなる投手でもあり、あの美しい雄姿を目に焼き付け、思い起こすことしか、私たちファンにはできそうもない。
【プロフィール】はせがわ・しょういち:1970年東京生まれ。早稲田大学商学部卒。主婦の友社入社後、『Cawaii!』編集部等を経て、2003年ノンフィクション作家に。「トモさんとは同い年で、彼の入団と僕の就職、彼の引退と僕が独立した年まで一緒。どうしたって思い入れはあります」。著書『最弱球団 高橋ユニオンズ青春記』『プロ野球12球団ファンクラブ全部に10年間入会してみた!』『ギャルと「僕ら」の20年史――女子高生雑誌Cawaii!の誕生と終焉』等。168cm、63kg、O型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2017年12月1日号