これをみると新宿付近は63~70デシベル。麻布・恵比寿・渋谷付近は68~74デシベル。大井埠頭・大井町付近は76~80デシベル、ということになっている。80デシベルというのは目覚まし時計レベルということになっている。目覚まし時計以外で、あのレベルの騒音を聞くのは相当に不快であろう。

 また70デシベルというのは、ほぼ会話が成立しない騒音だといえる。麻布・恵比寿・渋谷では、路上での会話が不可能になるということだろうか。

 かなり不安に思うことには、これは「羽田空港のこれから」というサイトが出している数字だということだ。加害の当事者となる側は、被害者側に与えるダメージはなるべく小さく見積もりたいものだろう。ましてや、このサイト自体は羽田空港を所管している国土交通省が管理している。

 一般に、音は遠くなれば小さくなる。空路から少しずれるだけでもかなり騒音は軽減されるはずだ。だから、60デシベル以上の騒音になるのは新宿を起点に大井町、羽田空港へ向かう直線の左右を扇型に広がっていくエリア。そのエリアにある住宅については、資産価値へのマイナス影響を排除できない。また、羽田空港に近づけば近づくほど騒音は大きくなる。

 兵庫県の伊丹空港は、飛行機が飛ぶ直下に戸建て住宅が密集していることで知られている。昭和40年代には、その騒音問題はいくつもの訴訟になっていた。そこから関西国際空港ができたことはよく知られている。

 今回の進入路変更で、住宅も人口も密集している大井町周辺の上空305メートルを航空機が飛ぶことになる。76~80デシベルというのは、普通に考えれば耐え難い騒音だ。それによって、不動産の価値に影響しないわけがない。

 このサイトには、丁寧な解説付きの「よくあるご質問」というコーナーがある。そこに、こういう一節がある。

Q5:不動産価値が下落するのではないですか。
(中略)
航空機の飛行経路と不動産価値の変動との間に直接的な因果関係を見出すことは難しいと考えています。

「いけしゃあしゃあ」とは、こういうことを言う。80デシベルもの騒音が毎日のように発生するエリアで、いったい誰が大金をはたいて住宅を買おうとするのだろう。まず、木造の一戸建てはその資産価値が著しく損なわれるはずだ。

 防音機能が整っていない築古のマンションも、売りにくくなる。つまりは資産価値が低下する。賃貸住宅も悪影響は避けられないだろう。少なくとも「同じ家賃を払うなら別のところに」という動きは出てくるはずだ。したがって今後、大井町から羽田にかけてのエリアでの不動産購入には注意が必要となる。

 新宿周辺は63~70デシベル。マンションやオフィスビルの中にいれば、ほとんど気にならないレベルだ。そうでなくても新宿駅周辺は常に70デシベル程度の騒音が発生していると考えていい。

 麻布・恵比寿・渋谷付近は68~74デシベルということだが、渋谷は新宿同様に元から騒音の大きなエリアだ。ただ、麻布や白金には静かな住宅地もある。そういったエリアで、進入路変更による騒音がどの程度発生するのかは予測しづらい。それこそ、実際にそうなってみなければ分からない。

 仮に元麻布あたりの静かな住宅街の屋外で、頭上を航空機が通過するごとに60デシベル以上の騒音が発生するようだと影響が出るだろう。富裕層の間で「麻布は飛行機がうるさいからやめておこう」という感覚が広がる可能性は十分にある。

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