ライフ

【著者に訊け】川上弘美さん パラレルで描かれる女の一生

『森へ行きましょう』を上梓した川上弘美さん

【著者に訊け】川上弘美さん/『森へ行きましょう』/日本経済新聞出版社/1836円

【本の内容】
 恋愛や結婚、就職や転職、退職するか否か。人生にあるいくつもの選択の中で、もしもあの時…と思うことも多いだろう。本書は、1966年生まれの2人の女性の人生が、交互に丹念に描かれていく。「昔は、ということを言う年代になってきて、作品にも俯瞰する感じが出て来ました」と2018年に60才になる川上さん。登場人物たちの歩みに、今いる場所が必然ではなかったような、人生の不思議を味わえる。

 2人の女性の人生が交互に描かれる。1966年生まれの留津と、同じく1966年生まれのルツ。そう、2人のいる世界はパラレルワールドとして存在し、ありえたかもしれないもう一人の自分がいることを互いは知らない。小説では、そんな彼女たちの0歳から60歳までが描かれる。

「1966年生まれは丙午で、女の子の数は少ないんですが、私の周りにはなぜかこの世代の人が多くて。昔、教師をしていた時に教えた生徒たちもちょうどこの年代で、10代の、教室で明るく騒いでた頃を知っている彼女たちが、50代になり、お姑さんがいたり結婚しないで仕事をしていたり、それぞれの人生を歩んでいます。みんないろいろあるなあってことを想いながら書いた小説です」

 進学、恋愛、結婚、出産。人生の深い森の中に分かれ道は無数にあり、留津もルツも、そのたびごとに何かを選んで前に進む。「女の一生」が、無数の選択の結果として描かれるのが独創的で面白い。

「大きな分岐点だけじゃないんですよね。あの時、あの飲み会に行ったからとか、結構、どうでもいいようなことが分岐点になっていて。自分の人生も実はそうだったのかな、と書いていて思いました(笑い)」

 友人や恋人、結婚相手とその家族など、留津とルツの周りには似たような人たちが現れ、彼女たちとかかわりを持つ。

「最初の設定はなんとなくあったんですけど、後は書きながら決まっていきました。留津を書きながら、ここに出てきた人はルツとはどういう風に関係するかな?というのはいつも考えていましたけど、自分でも思いがけない方に進むこともあり、それは自分でもびっくりしましたね。登場人物が自然に動くというか、無理がなかった気がします」

 結婚して家庭に入る留津、研究所の技官として働くルツ、書いている間、川上さんがどちらかに肩入れすることはなかったという。

「それはたぶん、私自身、専業主婦だったこともあり働いたこともあり、両方の人生を生きてきたからかもしれません。でも、留津もルツも、たいていの女の人が、それほど距離を感じない存在ではないかと思います」

撮影/黒石あみ、取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2018年1月1日号

関連記事

トピックス

東京都慰霊堂を初めて訪問された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年10月23日、撮影/JMPA)
《母娘の追悼ファッション》皇后雅子さまは“縦ライン”を意識したコーデ、愛子さまは丸みのあるアイテムでフェミニンに
NEWSポストセブン
2023年に結婚を発表したきゃりーぱみゅぱみゅと葉山奨之
「傍聴席にピンク髪に“だる着”姿で現れて…」きゃりーぱみゅぱみゅ(32)が法廷で見せていた“ファッションモンスター”としての気遣い
NEWSポストセブン
渡邊渚さんの最新インタビュー
渡邊渚さんが綴る「PTSDになった後に気づいたワーク・ライフ・バランスの大切さ」「トップの人間が価値観を他者に押しつけないで…」
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKI(右/インスタグラムより)
《趣里が待つ自宅に帰れない…》三山凌輝が「ネトフリ」出演で超大物らと長期ロケ「なぜこんなにいい役を?」の声も温かい眼差しで見守る水谷豊
NEWSポストセブン
ルーヴル美術館での世紀の強奪事件は瞬く間に世界を駆け巡った(Facebook、HPより)
《顔を隠した窃盗団4人組》ルーブル美術館から総額155億円を盗んだ“緊迫の4分間”と路上に転がっていた“1354個のダイヤ輝く王冠”、地元紙は「アルセーヌ・ルパンに触発されたのだろう」
NEWSポストセブン
活動休止状態が続いている米倉涼子
《自己肯定感が低いタイプ》米倉涼子、周囲が案じていた“イメージと異なる素顔”…「自分を追い込みすぎてしまう」
NEWSポストセブン
松田聖子のモノマネ第一人者・Seiko
《ステージ4の大腸がんで余命3か月宣告》松田聖子のものまねタレント・Seikoが明かした“がん治療の苦しみ”と“生きる希望” 感激した本家からの「言葉」
NEWSポストセブン
“ムッシュ”こと坂井宏行さんにインタビュー(時事通信フォト)
《僕が店を辞めたいわけじゃない》『料理の鉄人』フレンチの坂井宏行が明かした人気レストラン「ラ・ロシェル南青山」の閉店理由、12月末に26年の歴史に幕
NEWSポストセブン
森下千里衆院議員(共同通信社)
《四つん這いで腰を反らす女豹ポーズに定評》元グラドル・森下千里氏「政治家になりたいなんて聞いたことがない」実親も驚いた大胆転身エピソード【初の政務三役就任】
NEWSポストセブン
ナイフで切りつけられて亡くなったウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(Instagramより)
《19年ぶりに“死刑復活”の兆し》「突然ナイフを取り出し、背後から喉元を複数回刺した」米・戦火から逃れたウクライナ女性(23)刺殺事件、トランプ大統領が極刑求める
NEWSポストセブン
『酒のツマミになる話』に出演する大悟(時事通信フォト)
『酒のツマミになる話』が急遽差し替え、千鳥・大悟の“ハロウィンコスプレ”にフジ幹部が「局の事情を鑑みて…」《放送直前に混乱》
NEWSポストセブン
『週刊文春』によって密会が報じられた、バレーボール男子日本代表・高橋藍と人気セクシー女優・河北彩伽(左/時事通信フォト、右/インスタグラムより)
「近いところから話が漏れたんじゃ…」バレー男子・高橋藍「本命交際」報道で本人が気にする“ほかの女性”との密会写真
NEWSポストセブン