病気が治るまでは、アナウンス室の電話番をしながら、ラジオやテレビの番組についてレポートを書くのが仕事でした。新人なのに、いきなり窓際族です。アナウンサーをクビにならなかったことが不思議です。いい会社だったし、いい時代でもあったんです。
一般のサラリーマンでも、他人の仕事ぶりをじっくりと観察する機会はあまりないでしょう。みんな自己流でやっているはず。アナウンサーも同じです。
ところが僕は、病気になったことで、異常なほど先輩の仕事をチェックするようになった。人の仕事を客観的に観察する時期が2年もあったのは、今にして思えばとても幸運でした。
転機になったのは永六輔さんの『土曜ワイドラジオTOKYO』の「なんでも中継」。15分くらいのコーナーですが、横断歩道の中継や歩道橋の中継、蟻塚の中継など、とにかく中継できないようなくだらない中継を、ディレクターの岩澤敏くん(後に演出家)と一緒に毎週必死に考えました。
たとえば電信柱の中継はこんな感じです。駅前の雑踏からちょっと横道に入ると坂道がある。ラジオだから、全部音でやらないといけません。いい音のする靴を履いて、コツコツ足音を立てながら登っていくんです。すると、ぽつんと電信柱が立っていて、質屋の看板が貼ってある。
電信柱を叩いたり触ったりしながらいろいろ中継するんですけど、途中からは、電信柱が自らの半生を回顧するんです。