「もともとぼくは、箱根駅伝には興味がなかったんですが、チーム事情で出場することになったんです。実際に“箱根”を走って、いちばん強く感じたのは、スポーツ選手としての価値や周囲の空気がガラッと変わるということ。箱根で活躍するとスポンサーからスポーツ用品の提供を受けたり、ファンからも定期的にプレゼントが届いたりする。一般の人が一夜にしてアイドルになったような気分になってしまうんです。そういった過熱感が“箱根がすべて”という思考になり、箱根駅伝で燃え尽きてしまう選手も少なくないと思います」

 出雲駅伝や全日本駅伝は全国大会なのに対し、箱根駅伝は関東の大学しか出場できない地方大会。それにもかかわらず、五輪同等、いやそれ以上の知名度と影響力を誇っているのだ。大学生にして、人生の頂上に立つという“魔力”が箱根には存在するのである。

「実業団には、元日に行われるニューイヤー駅伝がありますが、箱根と比べると、注目度やテレビ局の力の入れ具合がまったく違います。選手がやることは何も変わらないのに、視聴者の関心度も天と地ほどの差があります」(徳本氏)

 箱根で活躍した選手が社会人になると、そのギャップに戸惑うことがあるという。前出の出岐は現役を退いた際、「箱根駅伝以上の目標を見いだせなかった」と、その理由を語っている。

「箱根で燃え尽きてしまうランナーが一定数いるのは間違いありません。実業団に入った後、注目度などの違いに戸惑い、モチベーションが急激に低くなる選手もいます」(徳本氏)

 前出の酒井氏も、大学と社会人の違いについてこう語る。

「大学は4年間という期間がありますが、実業団にはないため、自身でモチベーション維持をしなければなりません。これがうまくいかず、やる気を失っていく選手は多い」

※女性セブン2018年1月18・25日号

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