──最近の中学受験塾の実態とは?
高瀬:本書は、大手受験塾を辞め、中堅受験塾の校長として赴任した黒木蔵人が、「親はスポンサー」「金脈」と受験のタブーを次々と露わにしていきます。一方で、<受験当日に公式を忘れた他校の生徒><偏差値40の子供><塾を辞めたい生徒>などを結果的に救い、「全員第一志望合格」を公約します。
エンターテインメントとして所々に過激な表現はありますが、子どもを“二月の勝者”とするために塾では何が行われているのか。例えば、作品の冒頭で受験当日の早朝に、塾講師たちが志望校の門前に集合し、雪をかぶって塾生を応援するシーンがあります。一見やり過ぎで馬鹿馬鹿しく見えるかも知れませんが、実際に塾生達に話を聞くと、応援が嬉しかったり、緊張がほぐれて平常心を取り戻せたりと、明確な効果が出ているんですね。
必ずしもいわゆるガリ勉タイプだけが受験向きという訳でもありません。サッカーなどチームスポーツを続けてきた子どもは、競争意識や、目的に向かってやるべきことを組み立てる経験値が高く、これは中学受験に生かせることがあります。ピアノをずっとやっていた子どもは、長時間椅子に座って集中する習慣が身についています。こういった子どもの個性は、受験勉強の進め方や、モチベーションのスイッチが入るタイミングに大きく影響します。受験を切っ掛けにあらためて子どもと向き合うことになる親はとても多いです。
また、中学受験塾の授業というと、異常な緊張感の中で黙々と、画一的な詰め込み勉強をしている印象があるかもしれませんが、トップクラスの講師の授業ほど、授業中に笑いが起きたり、活発に生徒が発言していたりします。義務教育と違って塾講師は評価によって待遇が変わります。彼らは小学生を集中して学ばせることに関して、プロなのです。『二月の勝者』には長期にわたって塾や講師、保護者等に取材してわかったこういった実態が沢山詰まっています。
──今後、中学受験は更に加熱していくのでしょうか。
高瀬:本書の裏テーマは「教育格差」です。大学受験改革を筆頭に、今、子どもたちは変革の波の真っ只中にいます。一方で、中学受験というチャンスを持った子ども、そうではない子ども、かなり格差があります。果たして、子どもを取り巻く環境はこれでいいのか? 世の中はこれでいいのか? 今の子どもたちの未来は? 今の子どもを取り巻く環境や事情、それを更に取り巻く大人たちの事情をリアルに描くことで、読んだ後に少し立ち止まって考えるきっかけになれば嬉しいです。