国内

出演強要問題 なぜ業界関係者の意見はまとまらないのか

「ある」「ない」で二分される業界関係者

 詐欺や脅迫的な言動によって強制的にアダルトビデオに出演させられたり、拒否すると多額の違約金を請求され、出演を強要される問題が、実際に被害に遭った女性たちによる告発をによって明るみになりつつある。2月1日には、警視庁からメーカーなど業界団体へ被害防止を要請するなど社会問題化する一方で、当事者たちの間では、虚偽の告発だ、いや現実はもっと酷い、などまとまりのなさが目立つ。ライターの森鷹久氏が、なぜ同じ業界の中で二分され続けているのかを探った。

* * *
“強制された”って言えば賠償金もらえたりするんじゃね?──

 AV(アダルトビデオ)数本に出演した経験のあるMさん(20代)は、とある映像制作会社関係者らが集う飲み会の席で、出席していた現役のAV女優が漏らした、あまりに軽い口調で発せられた”一言”が聞こえたとき、住む世界が違えばこうも見方が変わるのか、と驚いた。そして、改めて「私は確かに”強制的”にAVに出演させられた」と悟った。

 Mさんは高校卒業後、専門学校進学のために上京。東京生活もちょうど一年を過ぎた頃、同級生に誘われてモデルプロダクションに所属し、下着のモデルを始めた。当初はネット上の「下着通販サイト」に掲載する写真だと説明されたのだったが、実際には「コスプレ」商品や、アダルトグッズに分類されるようなセクシーな下着のモデルで、たった2~3回の撮影のうちに、ポージングなどで過激なものを要求されるようになった。そして最終的には「強制的に」AVに出演させられたという。

「下着のモデルだと説明されていった撮影スタジオで、男性スタッフ数名から”AVの撮影だとわかっていたはず”とか”みんなに迷惑がかかる”などと言われ、全部で3本のAVに出てしまいました」(Mさん)

 最初の一本だけならまだしも、もう2本も出てギャラをもらっておいて「無理やりなわけがない」などといった声が聞こえてきそうだ。しかし、Mさんや関係者らへの聞き取りを重ねていくと、ほとんど脅迫ともいうべき、AV製作者側の悪質さが浮き彫りになってくる。一人も味方がいない場所で、撮影に応じなければ帰さない、軟禁すると言われ、何が起ころうと、親兄弟、親族や職場の関係者まで巻き込むことを匂わせて、どこまでも追いかけるという圧力をかけ続けるのだ。

「事務所の社長からヌードモデルはどうかと勧められていましたが、断わっていた。それがある日、いきなり変な現場に投入され服を脱ぐように言われると”断れば金が無駄になる””違約金を請求する”と一方的に恫喝され、泣きながら撮影に応じました。その後も、やはり違約金とか”最低何本は出てくれなきゃ困る”と言われ、頭が真っ白な状態で撮影に参加しました……。逃げるように現場を後にしましたが、手にしたギャラは最初の一本分の5万円だけ。連絡を一方的に断ったのをいいことに、私の映像はネット上のいわゆる”裏サイト”にも出ています」

 このような悲惨な境遇を語るAV出演者もいれば「AVの世界がすべてそうだと誤解されかねない」と、反論するAV女優もいる。キカタン(企画単体)作品十数本に出演歴のあるマリアさん(仮名・20代)は、その両方の言い分は「真実」とした上で、AV出演者の間に形成されたヒエラルキーの存在を指摘する。

「騙されたと感じるかどうかは、人それぞれ。私だって、最初は水着モデルだと言われスカウトされた。しかし、その後はきちんとした事務所に所属し、作品ができる度にしっかりお給料をもらえました。でもそうではない子もいる。悪質なプロダクションに欺かれ、特にキカタン女優か、それ以下の仕事をやらされ続けている子達は、ずっと騙されたままと感じてしまう。

 レベルの低い作品を作る制作会社やメーカーであればあるほど、環境は劣悪で、ギャラの減額や未払いという話は頻繁に起こる。単体で活動できるような子は、当然みんなから大切にされて、ギャラも質も高い仕事ができる。結局、騙されたかそうでないかというのは、それぞれ女の子の立場によって見方が異なります。どちらも嘘は言っておらず、本音なんです」(マリアさん)

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