ところが、関西馬は関東の水をゴクゴクと飲んでくれない。それで美浦に入って調教をつけるときに、水を変えると馬が嫌がるという配慮から六甲の水をケースで持っていった。馬が口をつけるバケツに、水のボトル5、6本。そのくらいはすぐに飲んでしまいます。1本2リットルのボトル6本入りのケースを20ケースくらいでしたか。240リットルの水を運ぶ苦労は相当なものでした。
今はそんなことはないのですが、昔の美浦トレセンの水はカルキ臭があるように思えた。人間が感じるくらいだから、敏感な馬は水の違いに気づくはずです。美味い不味いというよりも、「あれ? いつもの水と違うぞ」と認識する。すると生存本能から、ガブガブ飲むことを控えてしまう。いつも飲んでいる水は安心だけれど、味が変われば危険かも、と思うのです。陣営としては、いつもどおりに30リットル飲んでもらわなくては困ります。
今は水の味に難色を示す馬はいないようです。ですが水には気を使います。角居厩舎では水素水を使っています。ろ過して純水にするから水の味がない。すっと身体に入っていくようです。
「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」ということわざもあります。機会を与えることはできるが、それを実行するかどうかは本人次第、という意味です。私たちは、馬にいい機会を与え続けるしかありません。
●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後17年で中央GI勝利数24は歴代3位、現役では2位。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。2021年2月で引退することを発表している。
※週刊ポスト2018年4月27日号